私立秀麗華美学園
「……あ、忘れるところだった」


姉ちゃんが歩みを止めてくるりと振り返った。


「父さんから伝言よ。気をつけろ、だって」

「な、何に?」


気をつけろ。特に思い当たることはなかったが、その続きを聞くのに俺は身構えた。


「いや、そんだけ」

「……は?」

「その5文字しか承っておりませーん。続きは自分で考えろってことじゃないの? ま、知ったこっちゃないけど。そんじゃあね」

「おい和人、次に俺が来るまでゆうかちゃんをしっかり守れよ!」

「なんなんだよいつもながら親父のやつ」

「さあね。そういう人だししょうがないんじゃない?」

「おーい! 俺を無視するな」

「よくわかんねえけどいいや。どーせ特に意味はねえんだろ」

「だろうね。それじゃ」

「それじゃ」

「おーい、 兄ちゃんはここにいるぞー」


うるさく自分の存在を主張する兄ちゃんの首根っこをひっつかんで引きずりながら、姉ちゃんは遠ざかっていった。
女癖の悪い兄貴ではあるが、どうも月城家の男子は、女性に逆らえない運命にあるらしいのだ。

親父か。ここんとこ会ってねえな。
まあ、月城も新しく子会社を作ろうとし始めたところだそうだから、忙しいだろうし。
別に会いたいわけでもないし。
ていうか会ったところで疲れるだけだし。
どっちかと言えば会いたくねえし。
まあ、いいか。


「いつもながら、すいません。兄ちゃんも姉ちゃんも、何しに来たんだか」


噴水のところへ戻り、精一杯の謝罪の気持ちを込めてゆうかに言った。


「なんだかんだ言って、和人の様子見に来たんじゃない。お2人とも忙しくないわけないもの。わたしは一人っ子だから、昔からよくしてくれて、感謝してるし」


確かに昔から、あの2人は本当の兄弟のように、俺よりゆうかを可愛がっていた。そして3人で楽しそうに俺をいじめていた。
我ながら、あの時ぐれなかったことについては大したものだと思う。
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