私立秀麗華美学園
「つ、つーか、薔薇園のこと」

「面白いぐらい焦ってたわね。大丈夫よ、言うつもりはなかったから。言うわけないでしょ。あれは和人がわたしだけに言ってくれたことなんだから」


そしてゆうかは意図的に顔をほころばせた。
それが意図的だとわかったとして、俺に何ができる。あーやべー可愛いーとか思う以外に、俺にできることはない。

加えて、そういう態度をとる時のゆうかは何か物事を独断で進めようとしているのだとわかっていたところで、やはり俺にできることはない。


「と、いうことで、薔薇園に行きましょー。言ってたら、行きたくなっちゃった」

「……やっぱり」

「和人が行きたがらないのわかってたもん。またわたしが薔薇について語るのをよくよく聞いて、ぜーんぶ、ひとつ残らず、覚えなきゃいけないんだもんねー」

「ぜーんぶ、ひとつ残らず、ですか」

「です」


ああこの小悪魔。こういう時にだけ語尾にハートをつけやがる小悪魔め。

俺に逆らう術はないと知っているくせに。



そうして俺たちは薔薇園に向かって、ゆっくり歩いて行った。咲や雄吾のシフトも終わっているだろうが、今日は合流する予定はない。どうせ咲のことだから、雄吾をあの格好のままで引き連れ回していることだろう。


「一応聞くけどー」


覚えていることを前提にされている話がやってくる。
俺は心の中で身構えた。


「薔薇の下で、って言葉、どんな意味だったか覚えてる?」

「お、覚えてる」

「今安心したでしょ」

「しました。えーっと、薔薇の下で、って言ったらそれは、内密にってことだったよな」

「よろしいー」


ゆうかはまた満足げに笑って見せた。俺がゆうかの話を必死で覚えようとするのは、大半がこの顔を見たいから、という理由で占められている。


「ローマ人は、薔薇を吊るした天井の下で話したことは、秘密にするって約束をつくっていたらしくって、そこから。だから、この間の薔薇園での話は薔薇の下で、ってことですね」


ゆうかは楽しそうににやりと笑った。なんか、しばらくネタにされそうだ。
まあ正直言えば、俺は恥ずかしがるよりも喜んでるわけなんだけど。
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