私立秀麗華美学園
植物園までの道では人影も少しはあったが、植物園の中でも奥の方に位置する薔薇園近くまで来ると、ほとんど人気がなかった。

植物園は外部の人に人気で、学園が開放(とは言っても学園内に入る人間には厳重なチェックがなされるが)されている時には、人もわりあい多い。
しかし大切にされている薔薇園は奥まっているので、この時間には人ももういないはずだ。

俺たちは入り口で警備の人に一礼をして、園内に足を踏み入れた。

視界はたちまち様々なカラーリングの薔薇で埋めつくされる。
花壇から零れるほどひしめいて咲く様子は壮観だ。同時に、独特の香りも漂い始める。誘惑するような、甘やかな香り。
やっぱりここは、美しい場所だった。


「わたしね」


花壇沿いに並んで歩いていると、ゆうかはぽつりと言った。


「青い薔薇、好きじゃなかったのよ。ブルーローズ。だって、自然のものじゃないんだもの。人工物の、代表みたいなものじゃない」


顔は花壇へ向けたままでゆうかは続ける。


「でもね、この間から、少し見方が変わったの。どこぞの国で、不可能なんて意味を持たされたわけだけれど、今、ブルーローズは実在してる。不可能を可能にできるってことを、証明してくれたんだって思ったのよ」


ゆうかは立ち止まって、俺の方に顔を向けた。いつもよりも大人びた表情にどきりとする。


「……昔から、泣き虫で弱虫で、自分の意見も言えなくて、和人はほんっとにへたれだったわよね。わたしは会った時から和人って呼んでたのに、和人はゆうかちゃんって、呼んでたし」

「あ、そういえばそれ、さっき噴水のところで聞こうと思ってたんだった。俺、いつからゆうかのこと」

「さーあ、いつだろう。中学にあがる頃じゃない? それ、わたしが言い出したのよ。恥ずかしいからちゃんづけするなって。許婚がいる友達はみんな、大体が呼び捨てだったし」

「す、すいません……」

「和人の謝り癖つけたのも、きっとわたしよね」


目を伏せてふっと笑い、ゆうかは再び歩き出した。
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