私立秀麗華美学園
これ以上勉強中の雄吾の横で、奇声を発したりすることはためらわれたため、1人で食堂に向かった。

隅の席に座り、顔を突っ伏し横を向く。総レースのテーブルクロスの上で頬がべちゃりと潰れ、石作りのテーブルから冷たさが伝わってきた。


「……機嫌が悪い、とか言ってたな……」


確か、真二が話しかけてもそっけない、とか、提案しても乗り気じゃない、とか。
どうしよう。当然すぎて、危機感の度合いがいまいち伝わってこない。


大体、俺が馬渕未樹について持っている情報なんて、真二の姫であることと、気性がゆうかに似ていることぐらいだ。

ゆうかの機嫌が悪い時って、いつだろう。
特別に眠たい時。食べたい物が食べられない時。本や映画がおもしろくなかった時。俺が話を聞かない時。俺が指示を遂行できなかった時。俺が花言葉を忘れた時。俺が失態をおかした時。俺が遅刻した時。俺が――……

なんだか、原因は真二の方にあるような気がしてきた。



いくら真二相手にしても失礼であるような思索をしていた丁度その時、ハート寮側の食堂の扉が開き、生徒2人が入って来た。
ゆうか、と、馬渕未樹、だった。


同じクラスではあるのだしもともと面識がなかったわけではないが、あの学園祭のふざけたクラス企画以来、ゆうかと馬渕は親しくなっていたらしいので、2人の組み合わせは意外というわけでもなかった。

何にしろ、こっちにとっては好都合だ。もし何か真二絡みの話をゆうかと一緒に聞くことができれば、依頼に協力してくれることにならないとも限らない。

俺には気づいていないようだったので――気づいていたとしても、手を振るとかいったアクションを必ず起こしてもらえた自信はないが――窓際のカウンターめいた席に座った2人に、背後から近づいて行った。


2人の話し声がぎりぎり聞こえるというぐらいまで近付いた時、俺の耳は、俺がまさに知りたかった情報を含んだ会話をキャッチしてしまった。


「真二がね、何にもわかってないの」


はあ、と物憂げに馬渕がため息をついたのと同時に、俺はとっさに壁のでっぱりに身を隠していた。
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