私立秀麗華美学園
例の如くその状態、つまり俺にとって生存価値の見出せない日々はしばらく続いた。

そして俺の心境と反比例するように、夏へ向かい始めた空は雲に覆われることが少なくなってゆき、長かった今年の梅雨も明けた。


「気象庁にやつあたりをして、どうする」


梅雨明けを発表する天気予報の画面を、ベッドの上からリモコンで操作して消すと、風呂からあがった雄吾が言った。


「やつあたりなんかしてませんー」

「ああそうですか」


気のない返事をして、雄吾は自分のベッドに座る。


「つくづくゆうかも強情だな。しかも、無言の主張を貫く。そのやり方もほとんど、お前に対して限定だけどな」

「嫌がらせだよなあ」

「……いや」


雄吾は立ち上がって俺の手からリモコンを奪い、テレビをつけた。チャンネルを報道番組にまわす。


「それはそれで、「特別」なのだろうと俺は捉えているけどな。いつも、ゆうかはゆうかなりのやり方で、お前に伝えたいことがあってそうしているだろう?」


「特別」。それはもしかすると、俺と同じような立場の人間が、もっとも欲しているものなのかもしれなかった。

他の男と比べて特別。相対的優位。それが欲しくて、そのために通じ合いたくて、わかり合いたくて、わかって欲しくて?


俺はゆうかのことをまだ全然わかっていない。でもたぶんゆうかも俺のことをそんなにわかっていない。

だけど、間違いなく騎士にとって姫は特別で、騎士という概念自体は姫にとっての特別であるはずだ。

本人たちにとって不本意であろうが、どこの誰が決めた関係であろうが、「姫と騎士」はお互いが唯一である、1対1の関係でしかないからだ。


「……特別、は、特別、なんだろうとは思う」


俺が言うと、雄吾は「へえ」と呟いた。


「でもそうだったところで……伝わるべきこと伝わってなきゃ、意味ない」


番組のスポンサー名を読み上げるナレーションの声と、時計の針が進む音。

俺が枕に顔を埋めると、雄吾は「そうか」と呟いた。




< 196 / 603 >

この作品をシェア

pagetop