私立秀麗華美学園
また派手な音を立てて咲が俺たちの部屋のドアを開け放った時、俺はベッドを丁寧にメイキングしているところだった。
部屋に静かに入るぐらいのことが、できないのかお前は。


「咲、和人がさとりを開いたそうだ。聞いてやってくれ」


冗談なんだか本気なんだかわからない雄吾のそんな説明により、咲はテーブルについた。俺が斜め前に座ると、雄吾が3人分のグラスをテーブルに置いた。


「では、どうぞ」


両手でグラスを持って中身を見つめる。
薄い緑色の透き通った液体からは爽やかないい香りがした。


「えっと……今日少し、自分のことを、考えて、みまし、た……」

「へえ」


グラスに口をつけようとした咲が興味深げに言う。


「珍しいやん」

「ゆうかのことばっかり、考えてるって、それは前から言われてたことだけど、そうすることがあたりまえみたいに思ってた。
でも、それがいつも正しいとは限らないってことに気づいたって言うか……」

「それで今度は、自分のことを」


黙ってうなずく。


「そしたら俺……もしかして、言わなきゃいけないこと、言わなかったのかなって」


再び手の中のグラスに視線を戻す。

続きを言うのには、相手が雄吾と咲にしても、少し勇気と度胸が言った。
それらを体中からかき集めている間、2人はひたすら黙っていた。


「知っての通り、俺は自分に自信がないので。ゆうかが好きなのは自分じゃないことも明確だし。だから、こういう考えにいきつくまでにも馬鹿みたいに時間がかかって。

……違ったら恥ずかしいけど。穴があったら入りたいとか言うより穴ぼこ掘って潜りたいって程度に恥ずかしいけど。

俺がいっつもゆうかを優先させすぎるから。
俺自身の思ってること、言わないのが悪かったのかなって。
ゆうかはもしかしたら、俺が思うことを、言って欲しかったのかもしれないって、思った」
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