私立秀麗華美学園
そう言って、なぜか自慢げに兄ちゃんは両手を広げ袖を揺らして見せる。

兄ちゃんのみならず、階段を降りて来た面々は全員、浴衣姿だった。
淳三郎氏とりえさんはいつものことなのだが、こう、いい大人6人が浴衣を普段着の如く着用している光景は……夏祭り以外では見たことがない。


「日本の夏は、浴衣がないと始まらんだろう!」


くるりときびすを返し、淳三郎氏は満足げに笑いながら階段をのぼっていった。
申し訳なさそうな表情を俺に一瞬見せてから、りえさんもすり足でそれを追う。


「俺らにも、着用義務あんのかな……」


ぼそりと呟くと、勝ち誇ったように兄ちゃんが言う。


「ああ! 和人の分は持ってくるの、忘れたとおしゃってたぞ! 残念だったな!」


腰に手をあてて高笑い。あんまり残念じゃないけど、絶対わざとだろそれ。娘の婚約者の兄の婚約者(那美さん)の分まで持ってきといて、俺の分忘れるってどういうことだよ。


「まあまあ、お話もそれぐらいにして、お部屋へいらっしゃい。ゆうかさんも和人も、疲れたでしょう?」


母さんが言ったので、連れ立って大階段の方へ向かう。兄ちゃんがゆうかの手をとろうとしたので、俺と那美さんが兄ちゃんの浴衣の袖をむんずと引っ張る。なるほど、これは便利だ。


「お父さんたらまた、全部新品みたいね。わたしの分もあるのかなあ……わたし用の浴衣、もう家に20着はあるんだけど」

「和服コレクターだもんな、もはや」

「まあいいや。断固拒否しよ。和人も着ないんだもん、ね」


階段をのぼる俺の脳内では、ゆうかの浴衣姿と最後の台詞との葛藤が渦巻いていた。




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