私立秀麗華美学園
「そんなことないわよー!」

「そうかー?」

「そうよ」

「……そんなこととかそうとかそれとか、お母さんわかんなくなってきちゃった」


不満げに母さんがもらす。ゆうかはフォークでマリネをつっついていた。


「微妙なところなんですね」


那美さんが笑顔でまとめる。俺たちにだって、何がどうだかあんまりわかってない。だけど、この場でこんな風にやり取りをするのは、たぶん初めてのことだったと思う。


「なんだ、意外と上手くやっていけているんだな、和人」

「意外とって」

「私も舞子も嬉しいよ」


遠い席の親父は、できる限り俺の方に顔を向けて嬉しそうに言った。


俺たちの婚約は、言わずもがな、政略結婚だ。
だからと言って親父や母さん、りえさんと淳三郎氏も、自分たちの子供を道具として扱っているわけではない。

こんな風に、俺たちの幸せをきちんと願ってくれていることをはっきりと教えてくれる。
気づまりな席は苦手だが、そういうことのために、こうやって定期的に開かれる食事会は確かに必要なのだ。


「ふふ、ゆうかももう少し素直になればいいのに」

「わたしは素直すぎる程素直よ、ママ」

「和人くんも、少しは言ってくれたらいいのよ」

「……はい」


俺がゆうかの方を見ながら答えると、ゆうかは口を尖らせた。このやりとりに、場は再三、驚きの声に包まれる。


「『言うことなんてありません』って答えるかと思ったわ」

「私もだ」

「兄ちゃんもだ」

「……変わってきてるんです、よ」


ゆうかが呟く。
少しすると淳三郎氏は仏頂面を緩め、食事の手を再開した。



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