私立秀麗華美学園
徐々に話題は様々な方面に広がってゆき、料理もスープ、魚介料理肉料理と続き、デザートにピーチソルベが出てきた頃、親父と淳三郎氏は昨今の経済界の情勢について意見を交換していた。


「……やはりどうしても、明るい話題にはならんな」


隣で兄ちゃんがため息をつく。

兄ちゃんは既に月城系列の子会社で働いている。
身内だからといって簡単に昇進させたりはしないという親父の方針にも関わらず、かなり重要な部署を担当しているそうだ。

本人談だったのであまり信じていなかったが、那美さんが「あれだけは本当なのよ」と教えてくれた。こんな兄ちゃんでも仕事となると有能なのは確からしい。


「どこも不景気ですものね」

「那美さん、経済学部でしたよね」

「ええ。私、数学の好きな文系なのよ」

「那美は専攻が金融関係だからな。金については厳しいぞ」

「前から聞きたかったんだけど、なんで兄ちゃんは農学部選んだんだ?」

「牛が好きだからだ」


当然だろう、とでも言いたげな口調できっぱり言われ、返す言葉が見つからない。

将来、企業ひとつをその肩に乗せて人生を歩んでいく人間だとは到底思えないが、兄ちゃんは勉強に関しては本当に成績が良い。大学生時代は半分アメリカとヨーロッパに留学していたが、単位は余裕だったらしい。
だから親父も特に進路を縛ったりはしなかったようだが、それにしても、牛って……。

ちなみに兄ちゃんの成績が良いのは、学生時代、頭が良いと女子にモテるという伝説を信じていたからだ。


「経営や経済の勉強は、自分でするからいいんだ」


馬鹿兄貴だけど、こういうところは素直に尊敬する。責任の伴う自由というものをきちんと理解している人だと思う。

唯一自制しきれていない、女性に対する自由というものだけは、パートナーの那美さんがきっちり束縛してくれている。とてもいい組み合わせだ。


「でも、どうして牛なんですか?」

「可愛いからだよ。もちろん、ゆうかちゃんの方がかわい……ぶへっ」


前言撤回。ゆうかと牛を比べんな、この浴衣野郎。
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