私立秀麗華美学園
「大体お前はだな、姫君に振り回されっぱなしでどうする。いくら相手がゆうかちゃんだとはいえ……」

「……その言葉もそっくりそのままお返しするよ」

「なにおう! 俺はこれでもな、那美にだって言いたい時にはなんでも言っ……」

「あら、言いたいことって何ですか?」

「どわっ!」


兄ちゃんが目を見開いて飛びあがる。うしろに、那美さんが立っていた。新しいグラスを取ろうと席を立ったついでに、弟と言い争う婚約者の様子をうかがいに来たようだ。


「口では何とでも言えますものねーえ。和人くん、別に女を従わせるばっかりが、立派な男性ではないのよぅ」


少し酔った口調の那美さんは、兄ちゃんの手から、トマトとオリーブの乗ったカナッペを奪って口に放り込んだ。


「ああっ、なんてことを」

「なによー。まだお皿に、たぁくさんあるでしょう」

「……いや、そうだが、うむ」


文句でもあるの? と言いたげな顔を至近距離にし、わが兄上は黙って取り皿を片手に席を立った。


「ふふふ。ちょっとすっきりしたわ」

「俺もです」

「ねえ、和人くんは、浴衣着ないの?」

「あー、俺の分は忘れたそうなので」

「ああ、そうだったわね。意地悪な方。花嶺さん、一人娘のゆうかちゃんが可愛くてしょうがないのね」

「それは、わかってるつもりです」

「あなたたちを引き合わせた、張本人の一人でいらっしゃるのにね。でも和人くんとゆうかちゃん、私はお似合いだと思ってるのよ」

「はあ」


お世辞だろうな、と思っていたので曖昧に返事をすると、液体の入ったグラスで頭を小突かれた。
……思ったより酔っていらっしゃるようだ。


「本当によ」

「……はあ」

「和人くんがこんなに愛してくれているから、ゆうかちゃんはゆうかちゃんらしくいられるんじゃないかなぁ。
彼女、すごく自由な感じだもの。

相手が和人くんだったからこそ今の彼女がいるんだと思う。

私が2人を見てきたのはたった数年間だけど、あなたたち、政略結婚のための婚約者同士らしくないのよ。
もちろん、良い意味でね」
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