私立秀麗華美学園
那美さんは兄ちゃんが座っていた場所に座り、グラスを傾けた。
ソファーの方に視線を投げ、両親と話すゆうかを眺める。


「私はそう思うわ。きっとゆうかちゃんは幸せよ。本人が気づいていないとしても」

「……俺がいつも思ってしまうのは、自分より優れた男は、ゆうかに釣り合う男は、他に山ほどいるのにな、ってことなんです」

「わかるわ」


那美さんはテーブルにグラスを置き、切なげな目をして微笑んだ。


「私もそんなことばかり思っていた時期があったよ。
だけど和人くんには誰にも負けないものがあるでしょ」

「ゆうかを好きだって気持ちだけです」

「即答できるぐらいのね」


からかうように言って笑う。俺は自信なく俯いた。

確かにそれだけは誰にも負ける気がしない。だって、そのことだけは相手にだって認めてもらったのだ。
でもそれだけ。たったそれだけだ。お似合いだなんて、初めて言われたんじゃないだろうか。


「……那美さんには、あったんですか?」

「負けないもの?」


小さくうなずく。


「あったよ。私はね、一番思われてる自信。そう、和哉さんが教えてくれた時に、私、この人と結婚しようって決めたの」


意外な答えに目をみはっていると、那美さんは色っぽく笑ってみせた。
ほんのり赤みを帯びた頬のせいもあってか、彼女は今まで見た中で一番綺麗に見えた。


「驚いた?」

「知りませんでした」

「実は和哉さんも、和人くんに負けてはいないのよ。……なんて、言ったそばから」


那美さんの指した方を見ると、ハーブティーを淹れに立ったゆうかを兄ちゃんが窓際に連れて行こうとしているところだった。

那美さんと俺は同時に席をたつ。


「行きましょうか。馬鹿な男を引っ張りに」


直後、兄ちゃんのひらひらした両袖は両側からわしづかみにされるのだった。
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