私立秀麗華美学園
そのあとは、那美さんがゆうかを独占していたので、俺は気が進まないながらも花嶺夫妻のところへ行った。
帰って来てから、まだ一度もきちんと挨拶をしていなかったのだ。


りえさんはいつもより更に俺に対して擁護的だった。ゆうかとの進展(?)がよっぽど嬉しかったらしい。

淳三郎氏の方はというと。


「久しぶりに会話をしたが、ゆうかはよく笑っていた。
楽しそうだ。特に、二年に進級してからの話がな」


……と、意外な御言葉。身構えていた俺は思わず体の力を抜いた。


「本当ですか」

「……知らん」


そしておちょこになみなみの地酒をぐびり。
俺はりえさんと目を合わせて苦笑した。

「本当だ」の一言が言えない複雑な親心と同時に男心が垣間見えたようで、彼に対する苦手意識が少し、和らぎつつあった。


風來と鳥居のところはどうなんだ、などと話題を変えられても、素直に会話に入ることができた。順調すぎるほどです、と答え、りえさんに求められてもう少し詳しい話をする。

ただの学園生活のことを淳三郎氏のいる前で、こんなに長々と話したのは初めてだ。


しばらくすると柱時計が鳴って10時を告げた。今度こそ本当にお開きの時間だ。親父や母さんもグラスを戻し始めたので、それでは、と会釈をして立ちあがった時、淳三郎氏の呟きが聞こえた。


「年に一度は顔を見せに来るように……ゆうかにも強く言っておきなさい。
それと……風邪には、気をつけるんだな」


前の帰省から一度も風邪など引きはしていなかったがそんなことはどうでもよかった。

「わかりました」と答え、また少し、頑なな男との間の壁が薄くなった気がした。


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