私立秀麗華美学園


7月末の某日、花嶺一家は1人娘の許婚である月城家の次男の実家で開かれた食事会に出向いた。

フランス料理のディナーを終え、一同は場所を移してそれぞれに歓談をし始めたところだ。


花嶺ゆうかは両親と少し話をしたあと、その婚約者であるところの月城和人と、何やら不穏な会話を交わしていた。
プロジェクトがどうのと、部屋の和やかなムードには似つかわしくない話をしている。

そんな彼女の背後から、千鳥足と言って差し支えないような足取りで、1人の浴衣姿の女性が近づいていた。


「ゆうかちゃーん。ちょっとお話ししましょ」


彼女は和人の兄の婚約者だ。かなり酔いが回っていると見える。

彼女越しに見える部屋の隅の方には、月城家の長男がひどくしょぼくれた様子で座りこんでいた。おそらく彼もアルコールが入っているのだろう。


「はい」


ゆうかは笑顔で応じ、和人から離れて女性と共に部屋の中央のテーブルの方へ向かった。


「ごめんね、お話しのところ」

「いえ、全然。お話ししましょ、って?」

「ん? 特に話したいことがあるわけではないのよ、別に。ただ、なんだか今夜は楽しくって」


女性、那美は嬉しそうに微笑んだ。彼女の表情を見てゆうかは不思議な気分になる。


「那美さん、本当に幸せそうですね」

「あら、意外だった?」

「あ、いえ、そういうわけでは」


言葉を濁したゆうかの正直な反応を那美は笑って受け止める。


「そう思うのも当然かもね。でもわたしは、あんなのでも、和哉さんを嫌だと思ったことは1度もないのよ」

「そうなんですか」

「わたしが幸せそうに見えるっていうなら、その通りだと思うわ」


那美はちらりと和哉の方を見てから、ゆうかの方に顔を向け、真正面から彼女の顔を覗き込んだ。
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