私立秀麗華美学園
「なあんだ。じゃあ、問題ないわね。ゆうかちゃん、和人くんに歩み寄ろうとしてたんだ」

「……そうなんでしょうか?」

「あれ、無自覚?」


きょとんとしたゆうかを、那美はじっと見つめる。
普段の彼女に見られる余裕の色はまったくなくて、そこにはただ純粋な疑問を抱いた子供のように無垢な瞳があった。

那美は驚いてじっとそれを見つめた。


「もしかしたら、2人とも」

「はい?」

「とんでもなく、不器用だったりして……?」


お互いに対してだけ、と心の中で付け加える。

不満そうな顔をしたゆうかが酔いの回った那美に、そんなこと、と言い返しかけたようだが、口を閉ざして押し黙った。気まずそうに視線を逸らす。


「ふふふ。じゃあもっと、意識的に歩み寄ったらいいわ。
ほんの少しでも、自分から動いてみるとね、全然違ったものが見えたりするから。

和人くんがゆうかちゃんのためにくるくる動き回ってくれるからって、それに甘えてちゃだめよぅ」

「ああああ甘える!?」


ゆうかがあまりにも素っ頓狂な叫び声に近いものをあげたので、那美はあっはっはと笑った。しばし、笑い続ける。

相当酔っていらっしゃるようだ、と、誰かと似たようなことをゆうかは思った。


「うーん、じゃあ今のは、ちょっと言い過ぎたってことでいいや。

でもね、ゆうかちゃんが彼のことをどう思っていたとしても……彼の気持ちはもうそろそろ痛いほど伝わってるんでしょ?

だったら少なくとも、和人くんを、自分のことをあんなに愛してくれる人を、もっと大切にしてあげても、ばちは当たらないんじゃないかなあ――」


正直なところ自分の中にも小さな罪悪感に近いものとして頭をもたげつつあった、痛い点をつかれてゆうかは返事ができなかった。

革張りのソファーの方をもう一度見る。

あまり大きくはない背中。思い出すのは、甘い香りに満ちたあの場所でのことと、静かに怒りを抱えた自分を雨の中びしょ濡れになりながらも追いかけてきた彼の、笑顔を見た時の不思議な安心感。


今となっては疑っているわけではない。

だから今度は――


教えてもらうために、尋ねてみようと思った。








< 263 / 603 >

この作品をシェア

pagetop