私立秀麗華美学園
「なるほど。学園祭の時に和人くんに会ったが、1人だったようだから。いらぬ心配をしてしまったようだね」

「ああ、姫が仕事中だったのでしょう。基本的に彼は、姫以外の人間に興味がないので」


雄吾とその父の会話を聞きつつ、咲は考えた。

顔が見えないけれど、あれは確か、雄吾の――


「ちょっと、ごめんなさい。トイレに」


咄嗟に言い訳をして咲は思わず席を立った。自然、質問が雄吾に集中して、雄吾は咲の姿を追い続けることができなかった。

テーブルから離れ、大人たちに見られていないことを確認して部屋の隅のピアノの方へ向かう。


「あれ? 咲さん? お手洗いはあちらですよ……?」

「あ、いや、ちょっと」


麻由と一緒に妹の髪を三つ編みにしていた、雄吾のいとこにあたる女の子が咲に声をかけた。

どうしようかな、と一瞬迷って、咲は女の子にそっと尋ねる。


「なあなあ、あんまり仲良くないん?」

「誰と?」

「羽美ちゃん。あんな端っこにひとりで」


咲は黒髪の少女の方を指して言った。

少女、羽美は雄吾の妹にあたる子だった。
あたる子、とはややおかしな言い回しであるが、そこには少しだけ、複雑な事情があったりする。


「誘ったんよ! でもな、返事してくれんの」


麻由が急いで返事をする。仲間外れにしているなどとは思われたくなかったのだろう。


「そうなんですよう。さっきも麻由ちゃんと一緒に、『遊ぼう』って、言いに行ったのに」

「俯いただけで、なあんも言わへんかってん」


ふーん、としゃがみ込んだ咲は首を傾げる。確かによく喋る子だと思ったことは、なかったけれど……?


「まあ、そんな時もあるか」


咲はけろりとしてすっくと立ち上がると、今度は本当にお手洗いに向かった。


羽美のいとこと麻由は、咲の切り替えの速さに少しの間口をぽかんと開いていたが、やがて手に持った髪をきれいに編むことに専念し始めた。
< 271 / 603 >

この作品をシェア

pagetop