私立秀麗華美学園
「どうしたんかなあー……」


夕食後、咲と雄吾は2人で時間を過ごしていた。


「何かあったか?」

「羽美ちゃん。なんか、めっちゃ大人しなってる?」

「ああ」


夜風になびいた咲の髪を弄びながら雄吾は答えた。


鳥居邸は基本的には和風の造りで、畳敷きの茶の間や坪庭があるのだが、その甚大な数の部屋のほとんどには、洋装がなされている。

和の伝統美を追求しつつ勝手の良さや利便性を考え、ジャパニーズモダンをモチーフに雄治郎がこだわり抜いた結果である。


2人が座っているのは、和風に言えば縁側なのだが、フローリング張りでぴかぴかに磨かれており、ひと続きのアウターリビングといったところだ。


「まだ、羽美とはきちんと喋っていないな。今日はずっとひとりでいたようで、俺も気になってはいたんだ」

「前にお邪魔させてもらった時、丁度羽美ちゃん風邪ひいちゃってたから、あたしは会うん1年ぶりぐらいやなあ」


自分の膝に頬づえをついて、咲は遠い目をした。


「そうか。春に俺がひとりで帰省した時には、羽美もとても嬉しそうにしてくれていたんだが」

「ふーん。口調は相変わらず?」


ああ、と呟いて苦笑する。


「羽美は自分の境遇を知るのが早すぎたかもしれないな。変に遠慮をさせてしまっているのかもしれない。7歳にしてあんな堅苦しい丁寧語など」


……それは9年前の雄吾にも言えることやけど、と、出会った当初の彼のことを考えると咲はそう思わずにいられなかった。

実の兄妹ではないにしても、そこは鳥居の血のなせるところなのだろうか。


「春からやったら、半年も経ってないもんなあ。あ、もしかして、思春期とかっ?」


急にひらめいたように弾んだ声で言った咲を見て雄吾は微笑を浮かべる。


「かもしれない、な」


――そんな2人の様子を、障子に見立てたすりガラスの向こうから見ていた小さな人物が、長い黒髪をさらりと揺らし、その場を離れた。
< 274 / 603 >

この作品をシェア

pagetop