私立秀麗華美学園
その日の放課後、俺はなんと理由をつけてゆうかと一緒に寮へ帰るのを避けた。

そんな愚かなことをしたのはもちろん9年間の中で初めてだ。
大体行きと帰りは一緒になんて、昔の俺はどうやってそんな約束を取り付けられたんだろう。


自分でもよくわからなかった。だけどどうやら、昼の出来事が思ったよりこたえているらしい。
こたえてるっつったって、他の男と昼飯食ってんの見ただけであって、そのぐらいのことで落ち込んでたら身がもたないんじゃなかったっけ……。


白咲(熱血体育教師)に呼びだされてるから、という理由をつけていたので、体育教官室に向かうあたりをぶらぶらして時間を潰す。

30分ぐらい経ってからひとりで寮へ戻った。


ずーんと重たい空気をまとったまま部屋に入ると、雄吾はベッドに寝転がっていた。


「珍しいな。雄吾が寝てる」

「大体1日の4分の1ぐらいの時間はこうしているが」


屁理屈を言って雄吾が起き上がる。


「今日、昼、食堂、咲」

「は? ああ、見てたのか? たまたま会って、変な4人で、食べてたんだけど。……もしかして、妬いてる?」

「黙れ」


氷の一言も通常営業なので気にしない。


「ゆうかがヨハンと食堂行ったから笠井と追うことになったんだよ。初めてカルラと会ったけど、普通に日本語喋れるんだな」

「日常会話に差し支え皆無なせいで、咲との仲は深まるばかりだ」

「妬いてるのはカルラにか。ご執心だなあ」


入れ替わるように自分のベッドに身を投げ出した。


「……めんどくせーな、いろいろ」

「まあ、確かにな。進展したらしたで、より多くを相手に求めるようになる」

「うわあ、雄吾が恋愛を語ってる」

「茶化すな」

「でもほんと、めんどくせ」

「その感情にもっとも囚われてきたお前がそう言うか」

「囚われてる自分がな、めんどくさい。いい加減慣れろよって言いたくなるほど時間は経ってるのにな」

「それでもこれほどぶれずに9年間を過ごしてきたことは、称賛に値すると思うがな」


だって俺は。
ゆうかを好きじゃない自分なんて、想像することができないんだ。








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