私立秀麗華美学園
それからもいきなり火をつけようとしたりするので、先に木べらを持たせ、片栗粉を溶かさせてから、ものっすごいとろ火に調節した。

はあ、と思わずため息をつくと恐る恐る鍋をかき回している槙野さんが俺の顔を見上げた。


「ごめんなさいね、月城くん」

「あ、いや、ごめん」

「さすがに恥ずかしいわね。私、火を使うのも初めてかもしれないわ」

「まー、うちじゃ少なくないと思うよ、そういう人」

「女だからとか男だからとかそういうわけじゃないけれど。
たしなみとして最低限は心得ておくべきだと感じたわ」


槙野さんは子供がスプーンを握るみたいな持ち方で、木べらをぎこちなく操っていた。思わずふっと笑みがこぼれる。


「えっ、何かおかしかった?」

「いや、きっとみんな、すぐにうまくなるよ」


さすがというべきか、向上心。単純に経験値の問題なんだよなと思った。何せ俺にできるぐらいなんだからな。


他の女子もかわるがわる木べらを持った。半透明になったところで火からおろし、絞り袋で氷水に落としていく。

……はずだったが、熱い熱いと騒ぎになったため結局俺がやることになり、きなこと砂糖を混ぜる作業の指示を出した。


「おお、意外と器用だな」

「……お前、真剣に何しに来たんだよ」


始終眺め通しだった笠井を睨むが、飄々とした態度は変わらない。


「これあれだな、火とか包丁とか、過保護な親はやらせたくないんだろうな」

「おいこら無視すんな。働けお前」


動く気のない笠井に、ざるを取れ、と叫んでいると、槙野さんが戻って来た。


「月城くん、代ろうか? もうそろそろ冷めて……」

「だめだよ槙野さん。君の綺麗な手に火傷でもできてしまったら、僕は自分を許せなくなるから」


しゅっばっと横移動でいきなり現れた笠井に両手を握られ、槙野さんはきゃあっと顔を赤くした。恥じらいながらきなこ班に戻って行く。

いや、まあ別にいいけど、何なんだこいつは?


「……まさかわざわざ女たらしに来たのか?」

「馬鹿言え。今更そんな必要があるか」


確かに違いねーけど。なーんか変なんだよなあ。

釈然としないまま自分でざるを取り、働かない笠井の背中を眺めた。
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