私立秀麗華美学園
寮のロビーで待ち合わせだったのでどきどきどきどきしながら階段を降りる。
ゆうかの姿はまだない。よかった、先に着いた。

ゆうかと出掛ける。嬉しくないはずがない。それでもどうしたって心待ちにできていたわけじゃない。自分に自信がないから。失いたくないから。

あんまりいらんこと考えるのはよそう、と、思ったところで、ハート寮の階段の方から靴音が聞こえてきた。


「……おはよ」

「おはよう」


降りてきたゆうかは、オフホワイトのトレンチコートを着ていた。上品に裾を揺らしてゆっくりと降りてくる。こつこつと音を立てているのはヒールのあるパンプスだ。ゆうかの髪の色と同じ、キャラメルブラウン。

綺麗だな、と思うより先に、好きだなあと思う。
緊張は一瞬忘れていた。


「早かったね。まだ10分前」

「今来たとこだ……よ……」


……意図せず、少女漫画で付き合い立てのカップルが言うみたいな台詞を発してしまった。不自然に語尾を濁すとゆうかが笑って、最後の段を降りる。


「随分前に咲が行ったでしょう?」

「うん。雄吾も朝早くから準備してた。おかげですごい時間に起こされたけど」

「わたしも。行事の日だけは目覚めいいんだから、咲ったら」


バレンタイン、という言葉が脳内にひらめく。
変な動揺はせずにいられた。たぶん、現れたゆうかの姿を見た時点で不必要なことは頭から吹き飛んでいた。

今日一日、ゆうかと一緒にいられる。そのことがただ嬉しい。


「行こうか」


ガラス戸を開けて、濃いベージュのマフラーを巻きつけるゆうかを通し、2月の空の下に出た。
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