私立秀麗華美学園
「工事現場に行きたいというか、そこに会いたいやつがいるから」

「あーっ、わかった。あの人たちね? えっと、熊之崎さん、だったかしら」

「そうそう。熊之崎さんと、弓浜だよ」


初めて会ったのはわが学園の校門前で。大好きなタレントだかなんだかの出ていた映画をきっかけに、雄吾にいちゃもんつけにきたんだった。

二度目は学園祭で。うちのクラスの出し物に参加して、C組のじゃじゃ馬娘水沢と壮絶なバトルを繰り広げてくれた。赤ぶちめがねに異様な関心を持つ熊之崎さんと、子分なんだか弟子なんだか、俺たちと同い年の弓浜だ。


「この間の学園祭にも来てたんだ。やっぱり門の設置とかで。その時に、新年明けてから着工する建物が街の近くだって聞いてたからさ」

「へえー。いいよいいよ。行こうよ、工事現場」


快諾してくれたので、雄吾へのプレゼントを受け取りデパートを出た後、バスに乗った。4駅ほどで聞いた地名のところに着くはずだ。


「タクシー使えればいいんだけどね。いつも悪いわね」

「悪いわね? って? なんで?」


車が苦手なのは知ってる。っていうか俺も同じだし。だから帰省の時にも、駅からうちまでの距離をわざわざ歩いた。


「だから、わたし、石油の臭いだめだから」

「知ってるけど、俺もだし」

「……え? そうなの? 初耳だけど……?」


目を見開いて、お互いの顔を見る。
車体がゆらりと揺れて、同時に2,3度まばたきをした。


「……ん? あれ?」

「和人は平気でしょ、車も石油も」

「あれ? だって昔から、車乗った記憶ないんだけど」

「乗ってたわよ小さい頃は。大体だったら和人、あの家からどうやって初等部通ってたのよ……?」

「え? あれって自家用車? バスだと思ってた…………」

「だから、それ、わたしと行動する時がいつも車じゃなかったからよ。じゃあ何、和人はずっと、自分も石油の臭いが苦手で自家用車乗れないんだと思ってたの?」

「え、うん」


ゆうかが今度は、呆れたような顔で俺を見る。俺はどんな顔をしていいかわからず目を泳がせた、

……そうだったのか。昔から、ゆうかに行動合わせてたから。記憶まで改ざんされてるあたりさすが俺としか言いようがない。


「馬鹿なの?」

「ゆうか馬鹿です」

「馬鹿なのね」


楽しそうに言って視線を前方に流す。横顔がまだ少しだけ笑っていた。

タクシーでまっすぐ向かうより、バスで遠回りしながら目的地を目指す方が、いいやと思った。

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