私立秀麗華美学園
熊之崎さんがよろよろと戻ってきて仕切り直しだ。
頭にタオルを巻きつけて髭を生やしたワイルドな姿には今の口調が一番似合っていると思ったけど、気を遣ったみたいになりそうだったので言うのはやめておいた。


「そういや今作ってるここ、何ができるんだ?」

「でっかいビルっすよ。20階から30階あたりになんかの事務所が入るみたいっすね。今作ってんのまだ足場なんでまだまだ縦に伸びますよ」

「依頼元はどこになるの? ここ、立地もいいし土地代だけでも相当値が張りそうね」

「ああー、それがですねえ。そもそも俺らみたいなんがこんなすげー仕事関わってんの、ボスのおかげみたいなもんなんすよ」


ひとりで黄昏モードのボスに視線をやると、ああ、とかなんとか不明瞭な声を返してくる。


「あの、あれだ。いただろ。あの、メガネの」

「メガネ?」

「赤い、メガネの。女が」

「ああ、水沢さんのことかしら」


また懐かしい名前が。水沢紗依香。学園の生徒で俺たちの学年のC組にいる、赤ふちメガネで縦ロールの髪をした気の強い女子生徒。
登場当初は雄吾の熱烈な支持者として咲との間に紛争が勃発したが、その後A組の出し物にいらっしゃった時には、それとはまた違った壮絶なバトルを繰り広げていた。
その時好敵手となっていたのが、たまたま来ていたこの熊之崎さん(武士口調バージョン)だ。


「あの人が、紹介してくれたんすよ、ここ」

「水沢さんと連絡取ってたんですか、あの後」

「……たまたま会ってよ」


渋々といった風に熊之崎さんは口を開く。どういう話として語ればいいのか、決め兼ねているかのように。


「6月の祭のすぐ後だったな。街で会って、まあ、なんだ。連絡先を交換する運びになったわけだ」


その運びに至る経緯がものすごく知りたかったが、この困惑ぶりからして、水沢さんの方から持ちかけたことが推測された。
どういう目的があってのことかはわからないが、どうしても一瞬、雄吾と目の前のごつい男を比べてみてしまう。

……正反対、と言ってもいいぐらいだった。


「その時働いてた現場の場所言ってたからよ、こんな風に来やがったことが何べんかあってな。通りかかったっつって。それで次の仕事が決まらねえって段になって、ここを紹介してもらったわけだ」


窓の外に目をやったまま、熊之崎さんはタンブラーをぐいっと傾けた。
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