私立秀麗華美学園
「……つまりここの施工依頼主は、水沢さんなんですね。それでそこの娘さんとの個人的な関わりから直接紹介されて、おふたりはここに携わっていると」

「そういうこったな」


思いもよらなかった繋がりにぽかんとしている俺に対して、ゆうかはその事実の会得を楽しんでいるかのような余裕があった。
からかう、とまではいかないけれども、ゆうかの声色は少なくとも熊之崎さんの視線を逸らさせ続けるだけの愉快さを隠しきれずにいる。


「まあ、単純にありがたかったっすね。言ってた通り実際あの時、次の仕事決まってなかったし。こんなでっけぇ現場入ったことねえっすもん」

「今も連絡は取ってらっしゃるの?」

「ん、まあ、ここにもたまにな。棟梁に差し入れ渡して帰ってるさ」


彼女がわざわざ工事現場に赴く目的が、どこにあるのかを改めて考えてみるのは、野暮なことだろうか。


「彼女、雰囲気変わったんじゃないかしら」

「……少しはな。半年前よりは、女らしくなったんじゃねえかな」


認めざるを得ない、みたいな言い方でやっと語られた肯定の一言に、ゆうかは追究の手を緩めた。

それから10分ほど、俺たちは世間話に興じた。現場仕事のこと、コーヒーのこと、俺たちの生活のこと。弓浜が今日の日付に思い至ったところで、熊之崎さんが仕事のことを気にし始め、「先に戻ってる」とそそくさとプレハブを出て行った。


「……あの様子、もしかして今日、あの人来る予定なんすかねえ。俺は聞いてないけど」

「じゃ、鉢合わせない内においとました方がいいわね。またよかったら、後日談を聞かせてね」


俺たちも少し時間をあけてプレハブを出る。弓浜もすぐ戻らなければならないのでそこで別れることにするが、「後日談」も気になることだし、連絡先だけ聞いておくことにした。


「……見てわかってただろうけど、ボスね、すんげえ入れ込みようだったんすよ。如月眞子」


別れ際、子分なんだか弟子なんだかわからないが、俺たちの知る限りで熊之崎さんに一番近い存在の彼はそうぽつりとこぼした。


「純粋ってか、一途なんすかね。そんなんだっただけに如月眞子が引退発表した時は、ほんとに手のつけられないぐらいの落ち込みようで。
ほとんど性格変わったみたいに見えるっしょ。俺から見たってそうっすよ。
だからその頃、ボスにとってもあの人の存在ってかなりありがたかったんじゃねえかな。なんか怒られてましたけど。めそめそすんなって。

世界の違う人だと思ってたんすけど、案外そうでもないんですかね。今日、2人来てくれて、改めて思いました」


俺たちが反応を返す間もなく、じゃっ、と手を振り、社会人たる同い年の友達は、自分の仕事へ戻って行った。
< 451 / 603 >

この作品をシェア

pagetop