私立秀麗華美学園
予約席に案内される。入り口から一段上がったところにあって、ほとんど店内の中央の席だった。

席につき、ゆうかがトレンチコートを脱いだ。考えてみれば今日、上着を脱ぐのは初めてだ。
オフホワイトのコートの下は、うす桃色のワンピースだった。上品な膝丈でシンプルな形。上から羽織った白いニットカーディガンも見たことのないものだった。四角くあいた胸元には一粒のダイヤモンドが本物の輝きを放っている。

シンプル好みのゆうからしい服装だ。無駄な装飾は必要ない。そういえば、自分で選んだとか言ってたな。


落ち着いた席のそばには磨き抜かれたグランドピアノがあって、テープだろうがクラシック音楽が流れている。


「ショパンかな」


……曲名じゃなくて人名だよな、と頭の中で確認しているうちに応えるタイミングを失う。

付き出しみたいな形で出てきたグリッシーニを腹におさめようとするも、なかなか喉を通らない。グラスの水を流し込むとあんまり好きではない硬水だった。


「あ、逆だ」

「え?」

「ここのお水硬水だって聞いてたから、1人分軟水にしてもらったの。忘れてたみたいね」


説明しながら自分のグラスと交換する。中学生も顔まけってぐらいにどぎまぎしてしまった。膝の上に両手を置いて目を泳がせていると、ついにゆうかがふきだした。


「ねぇ、さすがにこうやって一日過ごして今更思ってないとおもうけど、今日は和人が想像してたような話するために来たわけじゃないからね?」

「俺が想像してた話、って」

「悲観してることくらい見てればわかりました。椿先生のお話を、そういう風に受け取ったと思ったんでしょ」


どうやら何もかも見破られていたらしい。その上で、今日の目的はそういうことではないという。
言われた通り、さすがに今日一日過ごしてみてまで別れ話の可能性を濃厚に考えていたわけではないが、それでもものすごく気は軽くなった。


「じゃあ、どうして、急に?」

「椿先生のお話を受けてってところは正しいの。猶予期間って仰ってたわ。
わたしはそれを、全然有効活用できてないなって思ったの」

「有効活用?」

「これだけの期間が与えられていたんだものわ。
わたし、和人のことをもっと知ろうとしてくるべきだった」
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