私立秀麗華美学園
俺のことを。交換したグラスには、確かに軟水が入っていた。


「向き合う努力を怠ってきたと言ってもいいわ」

「……そんな、真面目に」

「だって少なくとも和人はいつも真面目だったじゃない。
わたしのことを和人はよく知ってる。時々驚いちゃうぐらい。だけどわたしは? 和人のことをどれぐらい知ってる? どれだけ知ってて、知ってるつもりで、接してきたんだろう、と思って」


ゆうかは千切った細長いパンを皿に放置したままで、俺の目をまっすぐ見てくる。目を凝らさないと見えないものを見るように。大きな茶色の瞳は間接照明の光を含んで柔らかに輝く。


「だから一度、和人の希望に沿って行動してみようと思って。はっきりそう言わないと教えてくれないし。
それで今日は、観察させていただきました」


突然言われて、一日を振り返りたい気分になる。いつも見ていたのは俺の方だったけど、逆の立場になるとは思いも寄らず。改めて観察した時ゆうかの目に俺は、どんな風に映っていたのだろう。


「……それで」

「結果を教えてあげようか」


楽しそうに口角を吊り上げて、俺の心拍数も吊り上げて、ゆうかは笑ってみせる。


「結果。わたしは思ったより、和人のことを結構ちゃんと知れていたみたいでした」


拍子抜け、というわけではないが、予想外の方向性に言葉が詰まる。


「単純な好みの問題もそうよ。和人が注文する料理は予想ができたし、本の好みも当たってたわ。
行きたいところで工事現場には驚いたけれど、わけも聞いたら和人らしいと思った。雄吾のプレゼントに関しては予想の範疇だったしね」

「そっ、か……」

「一日取った甲斐あったのよ? ほら、食べよ」


前菜が運ばれてきて、会話は一旦中断となった。
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