私立秀麗華美学園
出汁の匂いが広がる部屋の中で、俺はテーブルに突っ伏していた。


「それはまあ、なんというか、奇襲だったな」


夕飯を作りながら雄吾が感想を述べる。失礼ながら厄介極りないと言わざるを得ない転校生について。


「何か返事はしたのか」

「はぐらかしたけど無視された」


そして幸ちゃんは事細かに当時の心境を述べた。当時というのはゆうかと俺と3人で遊んだ夏休みのことで、一緒に遊んだのがそれはそれは楽しかったという。


「……冗談だといいんだけど」

「冗談言う必要がどこにある」

「でも前に会ったのなんて十年近く前で、それから一度も会ってなかったのに」

「それ以来ずっとだったと考えると妙にも感じられるが、久しぶりに会えるとなって当時の気持ちを思い出したということはあるかもしれないな」

「冗談じゃなければ勘違いの方向で……」

「その方向はお前が決めることじゃない。そもそも別に、困ることでもないだろう」

「そうなんだけどさ……こんなこと今までなかったし……」

「ばっさり拒絶すればいいだけだろう」


鍋をかき回しながら真顔でのたまう彼にばっさりされてきた女の子たちの思いがしのばれる。


「思う側の気持ちが痛いほどわかるからということか。相手の気持ちになれるところはお前の長所だが、全員に良い顔をするというのは不可能だ」


まるで用意していたかのように完璧な、ぐうの音も出ない正論だった。
だけど、それでもやっぱり、


「……幸ちゃんも、花嶺だし、無下にはできないし」

「……花嶺、か…………」


その一言に引っかかったように雄吾は思案顔になった。手は止まってないけど夕飯の行方が少し心配になる。じっと眺めていると、ふと顔を上げてこちらを向いた。


「そういえば、お前が帰ってくる直前に真理子さんから連絡があった」

「まままま真理子さん? ゆうかのことで?」

「ああ」

「はあああ早く言えよそういうことはあああ!」

「悪い」

「で、なんて?」

「和人くんにお伝えくださいとのことだった」

「なんでしょう」

「伝えるのも心苦しいが」

「はい」

「俺としても不本意なのだが」

「俺で遊ばないでくださいお願いしますさっさと教えてください」

「寝そべって聞く話でもなさそうなのだが」

「はい! 正座しましたはい! ほら見て! 早く!」

「こちらから連絡するまで、連絡してくるなということだった」


散々焦らされた挙句に告げられたことは、最悪の想定とは違っていたが、俺から生きる気力を奪うのに十分な内容だった。


「泣くなよ」

「泣くよ」

「こちらを気にせずしっかりやれという激励と取っていいんじゃないか? ゆうかに関しては、回復の一途ということだった。心配はいらないと」

「まあ……それならいいけど……いやあんまよくないけど……」

「ゆうか離れの時期だな」


無理やり納得させられて、不本意ながらも、正座を解いた。



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