私立秀麗華美学園
「そんなにっていうか、全然…………幸ちゃんはやっぱり、英語は完璧なんだよね?」

「いちおーね。でもゆきの通ってたとこ日本人もいっぱいいたし、英語使わなくても生きていけたし。おばあさまがうるさいから、発音とかはきっちり、身に付けさせられたけど」


特別な生徒、のことを思い出して、何か所以があるのではと聞いてはみたが、考えてみれば語学なんて才能というよりは努力と環境の問題だ。遺伝子を研究したところで意味などないだろう。


「ゆきも勉強苦手なの。ていうかキライ。確かゆうかちゃんは賢かったよねぇ」

「学年順位で5番以内には入ってるから」

「うわー。いとこなのにレベル違いすぎるー。まあいいや、みんなに教えてもらお」


そういえば、幸ちゃんの席の周りに集まっていた中には、クラスでゆうかとトップ争いをすることのある島津なんかも入っていた。


「……幸ちゃんは、男の扱い上手いんだろ」

「えー。そんなことないもん。ゆきはふうーに喋ってるだけなんだけど、男の子が寄ってくるんだもーん」


どれぐらい本気なのかはわからないが、たぶん、わかっててやってる部分もあるんだろう。その意識以上に、男を惹きつけてしまう振る舞いが多い。そんなところなんじゃないだろうか。


「でも楽しそうだよ」

「ゆき、ちやほやされるのは好きだもん」


この学園の女の子にはそういう子が多いだろう、生活の結果として。でもそれをはっきり口に出してしまうあたりはいっそ潔い。
そんな環境に身を置く男の側からしてみれば、ちやほやするのが好きってやつも少なくないのかもしれない。慣れてるというか。


「イギリスの男の子も優しかったけど、日本の男の子も優しいね」

「幸ちゃんの周りにはきっとそういう人が集まってくるんだよ」

「でもね、ゆきは和人くんがいーなー」

「わかってると思うけど、制度上、俺はゆうかの仮の婚約者みたいなものなんですけどね」

「その制度はちゃんと知ってるけどー」


幸ちゃんは片頬を膨らませて俺を睨んできた。「あざとい」って言うんだろうなと思う。さっきも言っていたが、身長の低い幸ちゃんは自然と上目遣いにもなる。


昼休みも終わりかけ、食堂から戻ってきて教室に入ろうと戸に手をかけた時、幸ちゃんがぱっと俺を見上げた。


「和人くんもさ、わかってると思うけどさ」


見覚えのあるような微笑み方。
こあくま、の四文字がひらめく。


「ゆきも、花嶺だからね?」


わかってると思うけど、という確認の一言が、重くのしかかってきた気がした。






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