私立秀麗華美学園
花嶺だからね。

その言葉に込められた意味を理解するのは、そう難しいことではなかった。

花嶺幸。花嶺淳三郎さんから見れば彼女は姉の娘、姪っ子だ。近しい親戚。例えば、その結婚相手を自分の後継者として指名しても、なんら不思議はないほどの。
つまり、家のこと、そして姫と騎士の制度の目的だけを考えれば、幸ちゃんはゆうかの代わりになり得るということだ。


全てをわかっていて、あんなことを言っているんだろうか、幸ちゃんは。

そして、もしかしたら、ゆうかも。


「待たなくていい?」


雄吾にひとつ言っていなかったことがあった。
デートの帰り、突然抱き締められた時に、ささやくように言われた言葉。


「『待たなくてもいいのよ』って、確かそう言ってた。どういう意味だったのか聞こうと思ってたけど、会えなくなって、忘れかけてた」

「……意味深というか、解釈によってはまったく違う意味を持つ言いようだが。花嶺幸に言われてそれを思い出したということは、結び付けて考えたんだな」

「うん。幸ちゃんの言ったことと同じ意味だったんじゃないか、って」


俺たちは食堂にいた。咲と3人で夕食をとったが、咲は女子寮の有志で開かれる勉強会に参加しに行った。


「『わたしを待つ必要はない』ということ、か……」


ネガティブはもうまっぴらだとか、そんな風に言われたら少しは気が楽になっていたかもしれない。もちろん気休めを言って欲しいのとは違う。そして、雄吾は黙り込んでしまった。


「……だったら、幸ちゃんの転入が俺にとって突然だったのも、なんとなく、辻褄合うかなって。ゆうかもりえさんも知っていて、あえて俺には伝えなかったのかも」


辻褄が合ってしまいそうなことは他にもあった。突然のデート。贈り物。入れ違いみたいなタイミングでの幸ちゃんの転入。連絡してくるなというお達し。


「……仮に、お前の推測が正しいとすれば、花嶺総出でのたくらみということになるが」

「なるよな……」


突如として現れた、もう一人の花嶺。


「幸ちゃんは、ゆうかの代わりとしてやって来たのかもしれない」






< 479 / 603 >

この作品をシェア

pagetop