私立秀麗華美学園
代わり。思い切って言えば、花嶺が月城と結び付く鍵が、嫡流の末っ子でありながら長男である淳三郎氏の娘に、次女の娘が代わったというだけのこと。立場に大きな違いのない二人は年齢も同じ。そこには何の問題もない。
感情を取り払って考えるならばという、受け入れたくない前提の下では。
思い当ってから、その日は途方に暮れていた。まだわからない。確信はない。でも根拠になり得る出来事がここ最近多すぎた。考えれば考えるほど反証の道は閉ざされる。
そうだと仮定してみれば考えたくないことがたくさんあった。いつからそんなことが決められていたのか。夏に会った時には。兄ちゃんの披露宴で会った時には。そもそもそんなことを花嶺側だけで決めてしまえるはずなどない。うちの方でも認知されたのか。
そして何より、ゆうかが了承したことなのか。
泣きそうになりながら一晩を過ごした。泣いてる場合じゃないのはわかってる。
介入できることではないし、雄吾は沈黙していた。
そして朝。
着たくない制服を着て、行きたくない学校に行く。雄吾の視線には気づかないふりをして一人で登校した。頭が痛かった。奥歯を噛み締めて寒さに耐える。
ポケットに突っ込んだ手の感覚が無くなる頃には、腹をくくっていた。事実かどうかを確かめなければ、このままでは、何にもできそうにない。
進や槙野さんには何も言えなかった。言葉少なに会話する俺を二人は心配してくれたが、説明はしない。まだ何も、わからないから。
昼休みでは時間が限られ場所も選べないので幸ちゃんを避けた。代わりに放課後の時間を約束する。
ホームルームが終わると、幸ちゃんは帰り支度を完全に済ませ、笑顔で俺の席にやってきた。
「何かなー。お話って」
「帰りながらでいいよ」
幸ちゃんが暮らす、フリーの生徒用のダイヤ寮へ向かう。途中までは同じ石畳の道の色が変わるあたりのところで、立ち止まって、幸ちゃんを見た。
「幸ちゃん」
「……なあに?」
顔を覗き込んでくる幸ちゃんの表情は、状況を楽しんでいるように見えた。
「昨日の『同じ花嶺』って言葉、どういう意味で言ったのか教えて欲しい」
「和人くんはどういう意味だと思ったの?」
幸ちゃんは視線を少しも外さない。色素の薄い瞳に黒い影が写る。
「ゆうかと同じ花嶺、って意味だと」
「それじゃあ、合ってるんじゃないかな」
「……幸ちゃんは全部、知ってるんだね」
一瞬、瞳がふわっと大きく開かれて、幸ちゃんは初めて顔を背けた。
「……知らない」
「え?」
「ゆきも知らない。ゆきは、ただ、お父さんの仕事の都合で、帰ってきて、ここに通うようになっただけ」
「でも」
「和人くんが思ったようなことは、ゆきも考えたことだよ。わからないけどわかるでしょ、ゆきたちは。
……でもね」
振り返って、さっきと同じ笑顔を作る。
「ゆきは、和人くんのことが好き」
潜めた声は、俺が今一番欲している声とよく似ていて、記憶を塗り替えるみたいに重なっていった。
感情を取り払って考えるならばという、受け入れたくない前提の下では。
思い当ってから、その日は途方に暮れていた。まだわからない。確信はない。でも根拠になり得る出来事がここ最近多すぎた。考えれば考えるほど反証の道は閉ざされる。
そうだと仮定してみれば考えたくないことがたくさんあった。いつからそんなことが決められていたのか。夏に会った時には。兄ちゃんの披露宴で会った時には。そもそもそんなことを花嶺側だけで決めてしまえるはずなどない。うちの方でも認知されたのか。
そして何より、ゆうかが了承したことなのか。
泣きそうになりながら一晩を過ごした。泣いてる場合じゃないのはわかってる。
介入できることではないし、雄吾は沈黙していた。
そして朝。
着たくない制服を着て、行きたくない学校に行く。雄吾の視線には気づかないふりをして一人で登校した。頭が痛かった。奥歯を噛み締めて寒さに耐える。
ポケットに突っ込んだ手の感覚が無くなる頃には、腹をくくっていた。事実かどうかを確かめなければ、このままでは、何にもできそうにない。
進や槙野さんには何も言えなかった。言葉少なに会話する俺を二人は心配してくれたが、説明はしない。まだ何も、わからないから。
昼休みでは時間が限られ場所も選べないので幸ちゃんを避けた。代わりに放課後の時間を約束する。
ホームルームが終わると、幸ちゃんは帰り支度を完全に済ませ、笑顔で俺の席にやってきた。
「何かなー。お話って」
「帰りながらでいいよ」
幸ちゃんが暮らす、フリーの生徒用のダイヤ寮へ向かう。途中までは同じ石畳の道の色が変わるあたりのところで、立ち止まって、幸ちゃんを見た。
「幸ちゃん」
「……なあに?」
顔を覗き込んでくる幸ちゃんの表情は、状況を楽しんでいるように見えた。
「昨日の『同じ花嶺』って言葉、どういう意味で言ったのか教えて欲しい」
「和人くんはどういう意味だと思ったの?」
幸ちゃんは視線を少しも外さない。色素の薄い瞳に黒い影が写る。
「ゆうかと同じ花嶺、って意味だと」
「それじゃあ、合ってるんじゃないかな」
「……幸ちゃんは全部、知ってるんだね」
一瞬、瞳がふわっと大きく開かれて、幸ちゃんは初めて顔を背けた。
「……知らない」
「え?」
「ゆきも知らない。ゆきは、ただ、お父さんの仕事の都合で、帰ってきて、ここに通うようになっただけ」
「でも」
「和人くんが思ったようなことは、ゆきも考えたことだよ。わからないけどわかるでしょ、ゆきたちは。
……でもね」
振り返って、さっきと同じ笑顔を作る。
「ゆきは、和人くんのことが好き」
潜めた声は、俺が今一番欲している声とよく似ていて、記憶を塗り替えるみたいに重なっていった。