私立秀麗華美学園
「もし想像の通りだったとして、月城は、どうすんだ」


正直言って幸ちゃんの反応を見てしまった今となっては、おそらく勘違いじゃ済まない事態になっているんだろうと思わざるを得なかった。本田の直球な問いかけは辛辣にさえ思えて、しかし彼の姿勢をよく表しているように思えた。


「本田は受け入れたんだよな」

「ああ」

「俺には無理だ」


姫が変わる。結婚相手が変わる。親の意向から花嶺の娘と婚約者同士になる、という事実だけを見れば同じだ。でも無理だ。俺の人生を構成する要素の中で、他の何がどう変わってもいい。だけど、ゆうかの位置が変わってしまうことだけは、受け入れることができない。


「ゆうかがいなくなったら、俺が俺じゃなくなる気がする」


まっすぐ俺を見る本田の視線から逃れるように顔を伏せる。自分がどれだけ意気地のないことを言っているのかはわかっているつもりだ。ましてや、今までほとんど付き合いのなかったクラスメイトの前で。雄吾に愚痴をこぼしているのとは違う。

こんな時にまでそういうことを考えなければいけないことが本当に嫌だった。
つくづく、月城という名前には相応しくない人間だ、と思う。


「……お前は、お前のままでいたいんだな」


本田は呟いて組んでいた脚を戻す。背もたれから背中を離し、前のめりになった。


「学祭の調理の時、お前にいろいろ偉そうなこと言ったの、謝っとく」

「え?」

「別に自分が間違ってるとは思わねえけど。いろんな戦い方があるんだよなと思って」

「……甘ったれんなよぐらい言われてもしょうがないかなと思った」

「口だけでんなこと言ってんならそうかもな。でも月城は本気なんだろ」


本気――


「ああ」


目の前の男は細い眉を片方だけつり上げ、今日初めての笑みを見せた。


「じゃあ、俺はもう用無しだよな」


立ちあがる本田に簡単にお礼を言う。去り際、独り言ともつかぬ声で彼は言った。


「月城は、敵に回すとめんどくさそうだ」


大きい意味での、「月城」だったような気がした。






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