私立秀麗華美学園
少し冷静になって部屋に戻った。考えなければいけないのは家に連絡を取ってみるかということ。話がしたいとは思えなかったが、そうしないことには進めもしない。
誰に、ということを考えると、母さんが一番いいような気がした。ふわふわしているとはいえ家のそういう事情を知らないわけはない。意を決し、会社ではなく実家の方に連絡してみることにする。
電話口には、聞き覚えのない声が出た。
「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「次男の月城和人です。母に取り次いでもらいたいんですけど」
「和人様でしたか。失礼致しました。申し訳ございませんが、和人様には、ただいまお取次ぎできないことになっておりますので」
では、と切られそうになったので慌てて理由を尋ねるが、そういうことになっている、の一点張り。おそらく俺に馴染みのない使用人だ。わざわざ電話番をさせているとしか思えない。最後の方には半分脅しみたいなことも言ってしまったが、強行に通話を終了させられた。
これは、もう、疑いようがない、と思った。受話器を置いて、そのままベッドに寝転がる。しばらくすると雄吾が帰ってきた。
「それで、どうする」
雄吾はいつにも増して言葉少なだった。相談して決めることのできない領域だということは、お互いに痛いほど理解している。
「……どうしよっかな」
「途方もないことをするのなら、事前に相談しろよ」
「例えば? 病院にゆうか奪還しに行くとか? 幸ちゃん人質に要求叫ぶとか?」
「……思いついてるじゃないか」
非現実的なそういう案を考えるのは簡単だったけど、その先までを考えられないほど馬鹿ではない。どうせならどこまでも馬鹿の方がよかった。
「……いや十分馬鹿か」
「どうした」
結局、覚悟も考えも自覚も、何もかも足りなかったということだ。完全に予想外の出来事とは言えない。言ってはいけない。自分を悲劇のヒーローみたいに思っちゃいないが、どうしていいかわからなくて、かっこ悪く迷子になってる、ただそれだけ。
「実行しないから言ってくれよ。雄吾ならどうするのか」
「言えるわけないだろ」
「参考にもしないし、聞かなかったことにするから」
少し思案して、無表情で口を開く。
「一旦姫の変更を受け入れ表面的には良好な関係を築こうとする気概を見せつつ相手にそうと悟られないように嫌われる努力をする。姫が咲に戻るまでそれを一生繰り返す」
「…………さすがだよ」
「もう少し前向きな面を言うなら、同時に家をなるべく早く正式に継いで、周囲に嫌とは言わせない立場を築く……上に兄弟がいない俺の立場からの考えでしかないが」
「うん」
しばらく黙ったあと雄吾は着替えて夕飯を作り始めた。俺が悩み始めてから、雄吾は普段よりも部屋にいてくれている気がする。
とりあえず、だめもとで会社や稔にも連絡を取ってみよう。そう思いながらも、押し寄せる疲労感に負けて、眠りについた。
誰に、ということを考えると、母さんが一番いいような気がした。ふわふわしているとはいえ家のそういう事情を知らないわけはない。意を決し、会社ではなく実家の方に連絡してみることにする。
電話口には、聞き覚えのない声が出た。
「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「次男の月城和人です。母に取り次いでもらいたいんですけど」
「和人様でしたか。失礼致しました。申し訳ございませんが、和人様には、ただいまお取次ぎできないことになっておりますので」
では、と切られそうになったので慌てて理由を尋ねるが、そういうことになっている、の一点張り。おそらく俺に馴染みのない使用人だ。わざわざ電話番をさせているとしか思えない。最後の方には半分脅しみたいなことも言ってしまったが、強行に通話を終了させられた。
これは、もう、疑いようがない、と思った。受話器を置いて、そのままベッドに寝転がる。しばらくすると雄吾が帰ってきた。
「それで、どうする」
雄吾はいつにも増して言葉少なだった。相談して決めることのできない領域だということは、お互いに痛いほど理解している。
「……どうしよっかな」
「途方もないことをするのなら、事前に相談しろよ」
「例えば? 病院にゆうか奪還しに行くとか? 幸ちゃん人質に要求叫ぶとか?」
「……思いついてるじゃないか」
非現実的なそういう案を考えるのは簡単だったけど、その先までを考えられないほど馬鹿ではない。どうせならどこまでも馬鹿の方がよかった。
「……いや十分馬鹿か」
「どうした」
結局、覚悟も考えも自覚も、何もかも足りなかったということだ。完全に予想外の出来事とは言えない。言ってはいけない。自分を悲劇のヒーローみたいに思っちゃいないが、どうしていいかわからなくて、かっこ悪く迷子になってる、ただそれだけ。
「実行しないから言ってくれよ。雄吾ならどうするのか」
「言えるわけないだろ」
「参考にもしないし、聞かなかったことにするから」
少し思案して、無表情で口を開く。
「一旦姫の変更を受け入れ表面的には良好な関係を築こうとする気概を見せつつ相手にそうと悟られないように嫌われる努力をする。姫が咲に戻るまでそれを一生繰り返す」
「…………さすがだよ」
「もう少し前向きな面を言うなら、同時に家をなるべく早く正式に継いで、周囲に嫌とは言わせない立場を築く……上に兄弟がいない俺の立場からの考えでしかないが」
「うん」
しばらく黙ったあと雄吾は着替えて夕飯を作り始めた。俺が悩み始めてから、雄吾は普段よりも部屋にいてくれている気がする。
とりあえず、だめもとで会社や稔にも連絡を取ってみよう。そう思いながらも、押し寄せる疲労感に負けて、眠りについた。