私立秀麗華美学園
「拳は握ったままみたいだけどな」


指摘をされて初めて気がつく。左手をほどいて、そのままずるりと座り込んだ。


「……正しかったですか?」

「俺はそう思うぞ」


大事な人を侮辱された。つかみかかって抗議して、訂正させたかった。一面的には真実だろうとしょせんは妬み嫉みだ。そして誤解も入っている。
だけどそうできなかったのは、相手が女の子だからとか、そういう理由じゃなくて――


「……自分が嫌いだ」


膝をついて嗚咽した。泣いたりするのは弱さの象徴みたいに思えてたから、ぜったいにしたくなかったけど、駄目だった。悲しいというより悔しかった。

零さんはしゃがみ込んで、何も言わず、ただそこにいた。俺は、用具倉庫の裏手で、涙を滴らせながら嗚咽をかみ殺し続ける。声を上げて泣くのは昔から苦手だった。見られたくない、と思っているはずなのに、そこに零さんがいることに、安心もしていた。

嗚咽となって溢れ出る感情の嵐をやり過ごすのに、5分ぐらいかかった。
気づけば零さんは倉庫の壁にもたれて座っていたので、俺も隣に移動した。膝を抱えて洟をすすって、ぽつ、ぽつ、と、今までのことを話す。


「……そういうことばかりを考えてたせいが大きいと思うんですけど。百合子さん、と思った時、ふっと名字が浮かんできました」


藤家百合子さんの父親が経営するパティスリーは、うちの系列のホテルと提携していて、繋がりが深く古い。しかも気性の激しい百合子さんは、一人娘だ。
そんな事情たちが一気に頭を駆け巡った。


「あるべき姿なんじゃねえのか、それが」

「そうだけど……」


ゆうかのことを何より第一に考えたいと思いつつ、全然そんな風にはできていない。覚悟が足りなくて、どっちつかず。どうしようもない人間だ。


「あと、結局俺は一人じゃ何にもできなくて。家や家族は自分を守ってくれるだけみたいに勘違いしてたっていうか、まさかこうなるとは思ってなかったから……」

「そりゃ、そうだろ。信頼してたんだろうから」


しゃがみ込んで背を壁に預けていた零さんは、あぐらをかいてどっかりと座り込んだ。
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