私立秀麗華美学園
そしてその間学校では、幸ちゃんを避けるというのはやめておいた。いろいろ考えたけど、周囲から変に勘繰られないよう、あくまで婚約者の従姉妹としての扱いに努めることにした。

まあ主に問題は幸ちゃんの方の態度なわけだから、百合子さんたちみたいに思われるようなことも、ないとは言えないわけだけど。でもあからさまに避けたりしたら、花嶺との関係も疑われかねないし。なるべく憂鬱気分はとっぱらって、自然体で対応することにした。


「それ考えてる時点で自然体じゃねえけどな」


多目的室の鍵を指先でぐるぐる回しながら進が言った。

周囲の目に「避けてる」と思われたくないだけで、幸ちゃん本人には、むしろ思われた方がいい。副委員長のゆうか代理という名目で進の委員長の仕事を手伝うことで、昼休みや放課後の時間を何度か潰している。

「新歓の仕事あらかた片付けてから雲隠れってとこが、さすがと言えばさすがだな」と、今になって気づいたことを進は言っていた。


「雄吾やお前ほど器用じゃないからなあ。感情隠すの苦手だし」

「ポーカーフェイス、得意は得意で厄介なもんだ」


ポーカーフェイスといえばまだ聞こえはいい。悟られないだけならまだしも、本当の感情とはうらはらに都合よく勘違いをさせるのが得意そうなあたりが、幸ちゃんはおそろしいのだ。


「ぎゃっ」

「だーれだっ」


廊下に立って、多目的室の中で椅子の配置を確かめたり実行委員にちゃきちゃき指示を出している進を眺めていると、後ろから突然腰のあたりに腕がまわされた。

振り向かなくてもわかる。無言でつまんで腰から外そうとすると、細い指は素早くブレザーの両ポケットに潜り込んでいった。


「あのー、ちょっと、幸ちゃん」

「あっ、わかったぁ? 廊下さむーい。なんでこんなとこ立ってるの? お手伝いは?」

「今はちょっと……ていうかほら、この手を、どけなさい」

「やださむいー。和人くん、暇なら教室帰ろっ?」


なんとか逃れようと足を一歩踏み出すと、背中に身体を押しつけられた。肩甲骨のあたりで小さな頭が動いている。これはよろしくない。非常によろしくない。


「いや、だから、ちょ、あの」

「ゆきの言うこと聞いてようー」


引っ張り抜こうとつかんでいた手がポケットから這い出てきたので力を緩めると、今度はそれが俺の指に絡み付いてきた。


「あーもう、ちょっと、あー。わかったよ。教室行くよ」


あっさりと敗北した俺は、腕を組もうとする幸ちゃんからは一定の距離を維持しつつ、教室へ連行されたのだった。
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