私立秀麗華美学園
「違うのかよ! 姫と騎士って名前の制度が実質を伴っていないとしても、こういう時に守ることこそが、ほんとの」

「違う! やっぱりお前は何もわかっていない! 花嶺とは最初から、」

「和哉」


そこで、今まで黙っていた親父が兄ちゃんの前に手をかざした。
「続きは私から話そう」との言葉に、兄ちゃんは俺から目を逸らす。


「和人、お前はこの場所を覚えているか?」

「……親父に連れられて、初めてゆうかに会った場所だろ?」

「ああその通りだ。その時私は、何と言ってお前を連れ出した?」

「覚えてないけど……許嫁に会わせてやる、とか?」

「いや、私がそのことを言ったのは、花嶺さんたちと会って、そこのバーでしばらく飲んでからだったはずだ」


思い出してみればそうだった。いつもなら親父に連れられてどこかへ行く時には一緒のはずだった兄ちゃんは、風邪だったか習い事だったかでいなくて、今日は誰の真似をしていればいいんだろうとか思ってて、ラウンジに上がっていくエレベーターの中では、緊張が増していって――

そんな中でゆうかを見つけたんだった。

挨拶を交わしてからも、ゆうかは全然喋らなくて不機嫌で、緊張は増すばかりで。そんな俺たちをよそに、淳三郎氏と親父は次々とお酒を飲んでいた。何か頼むたびに綺麗な色に満たされたグラスがやってきて、大人の飲み物という感じがしていた。

そして、顔を赤くした親父に言われたんだ。


「この子がお前の婚約者だったら嬉しいか?」


目の前で、親父がその時の言葉を繰り返した。


「こう言ったんだ。最初から、婚約者と会わせてやるということでお前を連れて行ったわけではない。あの日、私と淳三郎さんは初対面で、しかしあまり格式ばった席にはしたくなかったから、互いに子供を連れて行こうということになったんだ。
そこで私たちは親密になって、お前はゆうかちゃんを大層気に入った……あの日から、しばらく経ってからなんだよ。お前たちを仲良くさせようということに決めたのは。
つまり、あの時の私の言葉は、初めは冗談だったんだが、お前はすんなりと信じてしまったというわけだ。

良い言い方ではないことは承知だが、都合が良かったんだよ。というより、不都合が特になかったからだ。
実のところ、姫と騎士の制度が導入されなければ、お前たちの関係がここまで続くことはなかったかもしれない」


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