私立秀麗華美学園
「花嶺に肩入れをする理由がない以上、外から見守る他こちらにできることはほとんどない。淳三郎さんに唯一頼まれたのは、賢明な判断を、ということだけで、意味するところは明らかだろう?
それを覆す理由を唯一持ってるお前と話し合いの場を設けようってこと自体そもそも適切な判断じゃない。
タイミングがタイミングだったためにあまりにも非情ってことで、そういうことにしたらしいが」

「……親父が決めたのか」

「まあな。お前たちが初めて会った日のことは、いつか言うつもりでいたらしい」


昨日よりも幾分か砕けた雰囲気に気が緩みそうになるが、甘えた声を出さないように気をつける。


「まだ何の責任を負うこともできない自分に、発言権を与えてもらっていることには感謝しています」


頬杖をついていた兄ちゃんが視線だけをこちらへ向けた。切れ長の目の中で俺と同じ色の瞳が、油断のならない素早い動きを見せる。


「でも遠慮はしない。言わせてもらえるなら言いたいことはいろいろある。だけどその前にそっちの言うことは全部ちゃんと聞こうと思ってる」

「それは、いい心がけだな」


兄ちゃんはジャケットの合わせをつかんでピシリと正した。ノーネクタイだがシャツは第一ボタンまで留めている。


「それではこちらも単刀直入に行こう。和人。お前はこの一年間、クラスメイトの笠井とどんな関係にあった?」


この一年間。それは返答を考える時にしっかり考慮しなければならない条件だった。


「……笠井進は、明らかにゆうかに好意を持っていたから初めはお互い敵対する気配があった。
でも二学期以降はむしろ、親しくしてた方だと思う。ゆうかのことは諦めたと言ってた。ゆうかがいなくなってからはいろいろ心配されてたぐらいだし」

「ほう、あの女好きの優等生がか?」

「少なくとも、向こうは俺を和人って呼ぶし俺は進って呼んでる。それはクラスメイトに確認をとってもらえればすぐにわかる」

「信用しよう。思いのほか親しくしていたようだな。ではお前たちのその関係は、今この状況でも良好なものだったと言えるか?」

「ゆうかが笠井にさらわれたのはたまたま目撃者になったからだろ? 作戦だったとか、そういうことでは、」

「それはそうだが、あのプロジェクトの性質からして、才色兼備の彼女に目をつけていた可能性はなくもない。それから我々は、誘拐の方が本懐だったことも視野に入れている」


考えたくはないことだった。しかし否定できる論理的な根拠はない。自分の身の周りで確固たるものだったはずの様々なことが揺らいでいる今、足をつけた大地にも確かな信頼は抱けなかった。
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