私立秀麗華美学園
用意されたのは、俺が泊まっているのとは別のスイートだった。進が泊まることになる部屋だそうだ。あれからまた少し話した後、兄ちゃんは仕事に向かったので、俺は待機していた。
進が到着したとの連絡を受け、部屋に案内される。ホテルマンがノックをすると、進がドアを開けた。


「進」

「…………どーも」


ホテルマンが場を辞する。促されて部屋に入った。

荷物は何も持っていないらしかった。ジャケットを着て小綺麗な格好をしている。背中を向けたままなところがいつも通りだなと思った。


「信頼されてるな」

「え?」

「敵側って言っていい人間と、2人になんて、俺なら絶対させられない。監視付きだとしても怪しいとこだ」

「守られてるって意味でもあるだろそれは」

「まあ確かにな。今俺が凶器でも持ってたら、月城和人は簡単に殺せる」


ガラス張りの窓から差した夕日が奴の身体の輪郭を縁取る。進は両手を挙げて振り向いた。


「……もちろん、身体検査はされてるさ」

「誰がお前なんかに殺されるかよ」


不思議だった。こんなやり取りなのに、警戒心が徐々に解かされていく。


「……ほっとした」

「は? 殺伐とした雰囲気で何言ってんだよ間抜け」

「いつも通りだったから、ほっとした」


殺伐と、なんて言ってる本人も、明らかに気を抜いた表情をしている。肩をすくめて、傍のベッドに座り込んだ。


「説明をしなけりゃいけないのは俺だな。いきさつ話すから聞け」

「言われなくても聞くよ」


進によれば、その時進は寮の部屋にいたらしい。突然やって来た家からの車に乗ったのがおとといの昼過ぎ。なんの前置きもなく、花嶺の一人娘を預かっているという話を聞かされたという。
知られてはいけないことを知られてしまった、とだけ理由を聞かされ、迎えにきた理由は花嶺側の勢力の手に落ちるのを防ぐため、だそうだ。


「俺の意思を問わない一方的な押し付けには慣れっこだったけどな。さすがにふざけんなって言ってやりたかったよ」


膝の上で拳を握る。「言ってやりたかった」が、実際口にすることはできなかったのだろう。
しかしそれが進の賢いところだというこたは認めざるを得ない。反抗の意思を隠し通す我慢強さがあったからこそ、こうして逃亡に成功したのだろうから。
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