私立秀麗華美学園
その夜。戻って来た兄ちゃんに呼び出された。進と話した内容を聞かれ、信頼するかどうかの判断をゆだねられる。答えは決まっていた。そして、進の同席が許可される。
「淳三郎さんから、親父に連絡があった」
ノートパソコンを膝の上で触りながら兄ちゃんが言った。
「電子メールだったが、発信源は笠井家にあるパソコンからだとわかる形でだ。
…………内容は、うちとの特別な関係を解消したいということだった。まず間違いなくPAK関係のことだ」
「……そんなの、言わされてるに決まってる!」
「心からの本意とは考え難いが、とにかく淳三郎さんたちも自由に動ける立場にはないらしい。
指示されたのだとすれば、笠井は花嶺を単独で抱きこもうとしているということだ。内容が内容なだけにおおごとにしたくないというのもわかる。それで事が収まるなら万々歳ってことだろう。
笠井の名前は出てこなかったが、あるプロジェクトへの協力要請に応じることにしたと、まあわかりやすく示してくださってたよ」
協力要請……プロジェクトの後ろ暗さを利用して、笠井にとって都合が悪くなりそうな存在たち共犯者に仕立て上げる。今回の場合、傘下に入れるってのはそういう見解で良いらしい。
あの、と前置きしてから進が発言する。
「うちの方から月城さんへは何も?」
「ああ、直接は何も。つまり、うちが向こうの事情を握ってる……真理子さんと稔が通じてたって部分は、ばれていないらしい。今頃月城は原因もわからず突然の通告にてんやわんや、と思われてるはずだ。
だからこそ、このお達しが笠井と花嶺、どちらの意思によるものかはわからない。笠井なら述べた通りだが、花嶺のものなら、うちを道連れにしないため、とも、それを建前に超優良物件に鞍替え、とも考えられる。
まあどちらにせよだな」
後者の考えは可能性すら認めたくはなかったが、論理的な反論ができないのはわかっていた。個人として考えたくないことも主観に左右されず簡単に口にできてしまう人だ。
「ご丁寧にも向こうから切り離してくれと言ってきているんだ。これに乗らない手はない、というのが正常な思考だと思うが、何か言うことは?」
わざとだ。挑発するような言い方で発言権を投げ与えられる。冷静な俺に、進が隣から意外そうな目を向けてくるのがわかる。
冷静に、と心の中で呟いてから口を開いた。
「姫と騎士の関係が形ばかりものだったとはいえ、うちと花嶺がお互い助け合う関係を良好に築いて来られていたことは事実だ。少なくとも10年間。それを、メールひとつで無に帰すことに、全くもって痛手を受けないってことはないはずだと思ってる。
このことが知れれば同じような協力関係を持ってる他の企業からの信頼が揺らぐことも考えられると思うし。
あと……花嶺との関係が無くなるとすると、俺が使い物にならなくなる」
提示する価値の程はわからなくても、確実に言えることだと思った最後の発言に、兄ちゃんは表情を変えた。
笑っちゃいけないんだけど、口角が上がるのを抑えられない、という顔。
「……正直、お前を追い詰めるために言わずにおいたけどな
『婚約』の名実がどうあろうが、花嶺と手を切るってなった時にお前が黙っちゃいないのはわかってるし、おそらく、力づくで黙らせるにも無理がある。俺や親父は、お前との関係を悪化させたいとは思ってないからだ。お前はうちに必要な人間だと思ってる。
一応、聞くだけ聞くが、その期待値を汲んでもなお、お前に理性的な判断を求めるってのは、無理な話か?」
唐突な話に面食らわないわけじゃなかったが、その期待値とやらが本音だろうが建前だろうがなんだっていい。この件に関しては、俺は理性的な判断の上で返事をしているつもりだ。
「あえてこういう言い方をするけど」
答えを察した兄ちゃんが、腕を組んで天井を仰ぐ。
「ゆうかと二度と会えないなんてのは、ぜっっったいにいやだ」
「淳三郎さんから、親父に連絡があった」
ノートパソコンを膝の上で触りながら兄ちゃんが言った。
「電子メールだったが、発信源は笠井家にあるパソコンからだとわかる形でだ。
…………内容は、うちとの特別な関係を解消したいということだった。まず間違いなくPAK関係のことだ」
「……そんなの、言わされてるに決まってる!」
「心からの本意とは考え難いが、とにかく淳三郎さんたちも自由に動ける立場にはないらしい。
指示されたのだとすれば、笠井は花嶺を単独で抱きこもうとしているということだ。内容が内容なだけにおおごとにしたくないというのもわかる。それで事が収まるなら万々歳ってことだろう。
笠井の名前は出てこなかったが、あるプロジェクトへの協力要請に応じることにしたと、まあわかりやすく示してくださってたよ」
協力要請……プロジェクトの後ろ暗さを利用して、笠井にとって都合が悪くなりそうな存在たち共犯者に仕立て上げる。今回の場合、傘下に入れるってのはそういう見解で良いらしい。
あの、と前置きしてから進が発言する。
「うちの方から月城さんへは何も?」
「ああ、直接は何も。つまり、うちが向こうの事情を握ってる……真理子さんと稔が通じてたって部分は、ばれていないらしい。今頃月城は原因もわからず突然の通告にてんやわんや、と思われてるはずだ。
だからこそ、このお達しが笠井と花嶺、どちらの意思によるものかはわからない。笠井なら述べた通りだが、花嶺のものなら、うちを道連れにしないため、とも、それを建前に超優良物件に鞍替え、とも考えられる。
まあどちらにせよだな」
後者の考えは可能性すら認めたくはなかったが、論理的な反論ができないのはわかっていた。個人として考えたくないことも主観に左右されず簡単に口にできてしまう人だ。
「ご丁寧にも向こうから切り離してくれと言ってきているんだ。これに乗らない手はない、というのが正常な思考だと思うが、何か言うことは?」
わざとだ。挑発するような言い方で発言権を投げ与えられる。冷静な俺に、進が隣から意外そうな目を向けてくるのがわかる。
冷静に、と心の中で呟いてから口を開いた。
「姫と騎士の関係が形ばかりものだったとはいえ、うちと花嶺がお互い助け合う関係を良好に築いて来られていたことは事実だ。少なくとも10年間。それを、メールひとつで無に帰すことに、全くもって痛手を受けないってことはないはずだと思ってる。
このことが知れれば同じような協力関係を持ってる他の企業からの信頼が揺らぐことも考えられると思うし。
あと……花嶺との関係が無くなるとすると、俺が使い物にならなくなる」
提示する価値の程はわからなくても、確実に言えることだと思った最後の発言に、兄ちゃんは表情を変えた。
笑っちゃいけないんだけど、口角が上がるのを抑えられない、という顔。
「……正直、お前を追い詰めるために言わずにおいたけどな
『婚約』の名実がどうあろうが、花嶺と手を切るってなった時にお前が黙っちゃいないのはわかってるし、おそらく、力づくで黙らせるにも無理がある。俺や親父は、お前との関係を悪化させたいとは思ってないからだ。お前はうちに必要な人間だと思ってる。
一応、聞くだけ聞くが、その期待値を汲んでもなお、お前に理性的な判断を求めるってのは、無理な話か?」
唐突な話に面食らわないわけじゃなかったが、その期待値とやらが本音だろうが建前だろうがなんだっていい。この件に関しては、俺は理性的な判断の上で返事をしているつもりだ。
「あえてこういう言い方をするけど」
答えを察した兄ちゃんが、腕を組んで天井を仰ぐ。
「ゆうかと二度と会えないなんてのは、ぜっっったいにいやだ」