私立秀麗華美学園
「会えなくなるとは限らないだろ?」

「そんなの屁理屈だ。うちとの間に特別な関係が無くなったと思わせなけりゃ意味ないだろ。お互い避け合わせるに決まってる」


少しの沈黙の後で、兄ちゃんは頭をかきながら前のめりの姿勢で座りなおした。


「まあ確かにな。代わりならいくらでもいるし、手を切る話もスキャンダルというほどでもない。
それでもここまで一緒にやってきて、友好的にやっていくつもりだったところに抜けられるってのは、それなりのダメージもあれば、人間的な情にしてもな。寝覚めが良いわけない。できることなら、折衷案なり、打開策なり、考えたいところではあるんだ。
お前が頑固押し通してる理由はそこにはないだろうけどな」


それは、手ごたえ、と言っていいものだった。兄ちゃんの態度は確実に軟化した。
切り捨てることを良しとしない方の考え。それが全くないと思っていたわけじゃないけれど、今言われたように俺の動機ではない。だから、兄ちゃんに認めてもらわなきゃ意味がなかった。


「それもあって、お前のこともあってだな。笠井には背を向け見なかったフリをしつつ、稔の情報を切り札に、いずれ時期を見てプロジェクトを潰してしまう。力を抑える。
そうすりゃメリットもあるし、笠井は花嶺を共犯者として傘下に置く必要もない。……単に切り捨てるより面倒かつリスクが伴うが、そういう手もナシではないと思ってたんだけどな。
花嶺の方から言われてしまった今となっては……それが言わされているだけだとしても、こちらからそういうはかりごとの連絡ができる状況ではなくなったな」


笠井に窓口を設定された以上、それ以外を使えば怪しまれる。何しろ向こうの状況は全くわかっていない。


「それをふまえて、ということになるが、時間はやろう」


えっ――? と顔を上げる。一縷の望みに固唾をのむ。


「全てをかんがみても切り捨てるのが一番手っ取り早い。年度末で死ぬほど忙しい時期だということも理由のひとつだ。俺たちが方々に手を回して、態勢を整えて、というわけにはいかない。このままだと、メールに対する返信は、『はいわかりました。さよーなら』だ。
しかし何か他に仕様があるのだとしたら――俺達は耳を貸す。当然ながらそれを受け入れるという保証などない。それでもお前はやるんだろう。
自分を納得させるなり、俺を説得するなり。期限は連絡から丸一日。明日の夕方までとしよう」

「――ありがとうございます」


俺は立ち上がって、頭を垂れた。兄ちゃんとしても、これが賭けであることは感じられた。ぎりぎりの選択だ。見誤れば、大きく足を踏み外すことにもなりかねない。


ほんとの正念場だった。兄ちゃんは敵ではない。そんな風にとらえるほどにお子様ではない。自分の望みを
叶えたければ、自分で頑張らなければ。

この家に生まれた者として。次男として。また笠井家の次男の友人として。
そして何より。
ゆうかの騎士として。


気負うところがどれだけ増えても、根本は変わらなかった。プレッシャーに、潰されるつもりはさらさらない。間違いなく、ゆうかがくれた強さだった。
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