私立秀麗華美学園
実務、というのは、みのるが外の人間に連絡しないとここの部屋は開けてもらえないことになっているらしい。俺が突拍子もない手段に訴えないように、だそうだ。

一通り挨拶をしてから、みのるは扉の傍に立った。部屋にいるのはこの5人だけだ。カメラとか盗聴器とか、ないとも限らないけど、後ろ暗いことを話すつもりはないから別にいい。


「――で、真面目に聞くけど、お前は今の自分家の状況、どれくらいわかってるんだ?」


みのるが来てから心なしか椅子に浅く座りなおした進に尋ねる。


「連れてかれる時に盗み聞いたんで、親父が花嶺夫妻と話をしてる場所はわかってる。大昔にうちの出資で開業した、目立たない旅館だ。幽閉してるなら別館を貸し切りだろうな。
ゆうかもそこにいるかどうかは知らねえが、どうだろうな、別の場所って方が自然か」

「貸し切ってるとしたら、警備は厳重だろうな……」


内情を知っているため、どうにか連絡を取る手段を見つけられるのではないか、という意味での切り札。
けれどそれは、進が家に対して完全に背を向けることをそそのかす行為になるため、無理強いはできない。


「……うちのやつらと、それこそ乱闘騒ぎやらかすってのは展望が絶望的だぞ」

「そうだよなあ」


無理強いはできない、けど。


「……テレパシーでもねえと、無理かもな」

「そうだよなあ」


けど。


「…………まあ、希望って言えんのは、一応、ひとつだけ」


期待のこもった、3つの視線に根負けしたように、進は歯切れ悪く言い出した。


「その旅館、長年じーさんが懇意にしてて俺も何度も世話になってるから。俺の味方してくれそうな人間が、まあ、いないわけではない」


切り札としての期待以上の情報だった。それはかなり無理やり吐かせた話だったが、乗らない手はない。というか他に手段がない。


「……その筋にはあたれるか?」

「現実的に、できるかできないかで言えば、やれないこたぁない」

「じゃあ、やってくれるか?」


さすがに、逡巡する様子を見せた。進が答えを出す前に、雄吾が確かめるように言葉を発する。


「……信用できる筋なのか、という質問は挟まなくていいのか」

「進が信用できるって言うなら、俺も信用することにする」


結局その言葉が駄目押しになった形で、進は「やるよ」と結論を出した。

もちろんできる限り迷惑はかからない形で口裏は合わせるようにする、と付け足したら、いらねーよ、と奴は笑った。
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