私立秀麗華美学園
机の上で両手のこぶしを握り締め、眉根を寄せながら咲は話す。


「確かにゆうかは、普段わがままなくせに、いらんとこ聞き分けいいっていうか、自己犠牲いとわないみたいなとこあるとは思うねんけど。でも、違うと思う。この件に関しては、そんなん思ってへんと思う。
電話してきたのとか思い出して! それに、巻き込みたくない言うたって、離れることが、少なくとも和人のためにはならへんのを一番わかってるのは、ゆうかやん!」

「……うん、俺も」


論理性で雄吾にかなわないのはわかっていて、いつも圧倒的な説得力にただうなずいていた俺たちだった。そんな咲が、自分の言葉を使って必死で、雄吾に異を唱えている。


「俺も、一応そう思ってる。だから、ゆうかの意思ではないってことにしときたい」

「やんなっ! よかったっ! じゃあさ、それはご両親の説得には使われへんの?」


咲が笑顔になって勢いをつける。雄吾は「そうか」と言って微笑んだ。


「2人がそう言うならそう考えておくべきだろうな。しかし、ゆうかの意思を汲みたいという気持ちはご両親にもあるだろうが、証拠はないんだ。言い方は悪いが憶測に過ぎない」

「そうだよな。だからやっぱり、根本的に……」


言葉の続きは出てこなかった。事の規模が大きすぎて、いっぺんには考えられない。

しばらく、部屋に沈黙が下りた。それをあえて破る意味があるほどの言葉を誰も見つけられない。


「……恐縮ながら、一つ、発言をお許し下さい」


扉の隣に視線が集まる。口を開いたのはみのるだった。


「ぼっちゃまには、何か具体的に考えていることがおありなのではないでしょうか」


えっ、と心の中で呟く。今度は俺に視線が集まった。


「先ほどから様々な案や展望に対し、お答えが迅速で明確でしたから。何かお考えになっていることがあり、意識されているかどうかは別として、そこへの足場を固めているのではないかと見受けられました。
もちろん、至極勝手な推測にすぎませんが、もしも思い当たられることが僅かながらもおありでしたら、失礼ながら申し上げます。
ぜひ、絵空事を現実にする勇気をお持ちくださいませ」


部屋にいる全員が俺の返事を待っていた。どうしてもためらいを捨てきれずにいると、雄吾が腕時計を確かめ、続きはまた明日にしようと提案した。

みのるが連絡して部屋が開錠される。雄吾たちもそれぞれ別に部屋をあてがわれているということだった。
また連絡する、と告げて自分の部屋へ戻った。





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