私立秀麗華美学園
「今日は朝から視察でね……大事なことなのに、同席できなくてすまない。明日もここに留まれそうにはないんだ」

「……忙しいのはわかってるから」


別にいいよ、とは言えなかった。大人のふりはできない。

親父が座ったスツールからひとつ空けて、俺も腰かける。


「和哉から事務的に報告は受けているが、本当のところ、どんな感じだ? 進くんや、雄吾くんと咲ちゃんも来てくれたんだろう。相談して、何か成果はあったか?」

「相談って言えないと思う。進は別として、できれば巻き込みたくはないし……話し相手になってもらったって感じだ。それだけでも、いつも一緒にいた2人が来てくれたのはすごく心強かった」

「和人は、人間関係に恵まれたな。何よりもありがたいことだ」

「うん。本当に……そうだと思う」


弱みを見せることができなかったり、表面上でだけ笑顔を取り繕っていなければならなかったり、そういう間柄はあの学園ではいくらでも存在する。
そんな中で、本心をさらけ出せる相手、心から信頼できる人々ができた。


「でもそれも、家のおかげなんだな。俺は敵対しなきゃいけない相手もいないし」

「それだけではないよ。家ではなく、人となりを買ってもらえなければ築けない関係だろう」

「だけどやっぱり……誰よりも早くゆうかに会えたのは、親父のおかげだ」


名義がどうであろうと。全てをかけられる相手に、俺は出会えた。


「……言わずにおけるなら、そのままでもいいと思っていたんだ」

「婚約者じゃないって話?」

「ああ。結果として同じであればいいだろうと。しかしこんなことになるなら言っておくべきだったな。
……その前に、まずは和人には謝らなければならないな。幸ちゃんのことだ。軽々しく行うことではなかったらしいと反省しているよ。ただ、普段はなかなか話をすることもできないから、私たちは不安になってしまっていたんだ。隠していたその事もあって、余計にね。
まさか、ゆうかちゃんが本当に風邪をひいて、入院した先でこんなことになろうとは……」

「……ゆうかが風邪ひいたのは、たぶん俺のせいだから。直前に、2人で街に出かけてたんだ。
いろいろ考えてたみたいで、ゆうかが誘ってくれて。その時のこととかも、良い話として報告したいけど、今言ったら思い出みたいになっちゃいそうで嫌だからやめとく。
でも、あれからひとつ言わせてもらうとしたら…………また、ゆうかと同じ関係に戻れることになったら、きっと今度は、俺たちは、うちの人も、花嶺の人も、誰のことも不安にすることなく、やっていけると思うんだ」
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