私立秀麗華美学園
親父は何も言わずに頷いていた。根拠なんてどこにもない。だけど、俺がゆうかとのことをこんな風に自信を持って言ったのは初めてだったと思う。それを、信じようとしてくれている。
恨んでなんかないから……と心の中で思った。本当の関係性を黙っていたこと。心変わりするんじゃないかと実験のようなことをしたこと。不安にさせていたのは俺たちなんだということは認めざるを得ない。
全部俺たちのためだったんだからしょうがない、と、簡単に全てを受け入れることはできないが、少なくとも道理にかなわない恨みをエネルギーにしなければ動けないほど、精神的に落ちぶれてはいない。
「私はね、子供ができたら、できる限り本人の望む通りにさせてやろうと考えていたんだ」
グラスの中で氷が軽やかな音を立てる。窓の外で瞬く夜景は、眠らない人々の悲鳴や歓声、雄たけびを視覚的に表しているようだった。
「富を築くことだけが人生の目標じゃない。私たちのやっていることは、もはや自分たちのためだけはない。
縁の下で支えてくれている子会社、投資してくれている企業や私人、サービスを享受している人々……多くの人間の、生活に関与していたり、命運すら握ったりしているんだ。
そんな立場におかれて……自分自身がある程度満たされていなければ、他人のことなんて考えていられないだろう? お前の場合は特に、ある程度どころか、全てと言っていいようだものな」
「…………うん」
照れるのも今更、という気がしたし、曖昧に返事をしてグラスに口をつける。
「まあ、今のところ私のすぐ後ろに控えているのは和哉なわけだが、その和哉も、結果的には恋愛結婚ということになりそうだ。和音は和音で、少し好き勝手させすぎているところがあるかもしれないな。そろそろ落ち着いてくれると安心するんだが」
「姉ちゃんは今どこで何を?」
「旅行だったか、なんだったか……今回の事情は話してあるから、数日中にはこちらへ足労願うよう言ってあるよ」
「別にいいけど……相変わらず、自由だなあ」
「そうだな……考えてみれば和人は、全然甘やかされずに育った末っ子だな。こんな時ぐらい、言いたいこと、何もかも言っておきなさい。
もちろん、それを私たちが受け入れるかどうかということは別問題だが」
「兄ちゃんと同じようなこと言うよなあ……いや、兄ちゃんが親父に似てきたのか」
窓の外で、明かりが少しずつ減り始める。眠りに身をゆだねる人が増えていく。
グラスの氷が全て溶ける頃、親父はラウンジを出て、仕事の現場に帰って行った。
恨んでなんかないから……と心の中で思った。本当の関係性を黙っていたこと。心変わりするんじゃないかと実験のようなことをしたこと。不安にさせていたのは俺たちなんだということは認めざるを得ない。
全部俺たちのためだったんだからしょうがない、と、簡単に全てを受け入れることはできないが、少なくとも道理にかなわない恨みをエネルギーにしなければ動けないほど、精神的に落ちぶれてはいない。
「私はね、子供ができたら、できる限り本人の望む通りにさせてやろうと考えていたんだ」
グラスの中で氷が軽やかな音を立てる。窓の外で瞬く夜景は、眠らない人々の悲鳴や歓声、雄たけびを視覚的に表しているようだった。
「富を築くことだけが人生の目標じゃない。私たちのやっていることは、もはや自分たちのためだけはない。
縁の下で支えてくれている子会社、投資してくれている企業や私人、サービスを享受している人々……多くの人間の、生活に関与していたり、命運すら握ったりしているんだ。
そんな立場におかれて……自分自身がある程度満たされていなければ、他人のことなんて考えていられないだろう? お前の場合は特に、ある程度どころか、全てと言っていいようだものな」
「…………うん」
照れるのも今更、という気がしたし、曖昧に返事をしてグラスに口をつける。
「まあ、今のところ私のすぐ後ろに控えているのは和哉なわけだが、その和哉も、結果的には恋愛結婚ということになりそうだ。和音は和音で、少し好き勝手させすぎているところがあるかもしれないな。そろそろ落ち着いてくれると安心するんだが」
「姉ちゃんは今どこで何を?」
「旅行だったか、なんだったか……今回の事情は話してあるから、数日中にはこちらへ足労願うよう言ってあるよ」
「別にいいけど……相変わらず、自由だなあ」
「そうだな……考えてみれば和人は、全然甘やかされずに育った末っ子だな。こんな時ぐらい、言いたいこと、何もかも言っておきなさい。
もちろん、それを私たちが受け入れるかどうかということは別問題だが」
「兄ちゃんと同じようなこと言うよなあ……いや、兄ちゃんが親父に似てきたのか」
窓の外で、明かりが少しずつ減り始める。眠りに身をゆだねる人が増えていく。
グラスの氷が全て溶ける頃、親父はラウンジを出て、仕事の現場に帰って行った。