私立秀麗華美学園
俺たちがホテルの一階に下りる頃には、既に車が待機していた。
乗り込んだのは俺と進、そしてみのるだ。
部屋を出るときに雄吾と咲とは別れなければならなかった。ゆうかからの手紙を預けると、口をつぐんだままの2人に手を握られた。
言葉に出せない気持ちをもらって、出てきた。


「……なんとかうまく言ったな」


頬杖をついた進が言った。俺はスモークガラス越しに、景色を見て、ホテルから出るのは何日ぶりだろうと数えてみる。


「いろいろ、言う順番とか吟味しようかと思ってたけど、勢いで言って成功した。
……まあ、正直、メールへの返信は「さようなら」で済むわけだから、ここまでは了承してもらって当然かもな」


全てをメールで語ることはできない。笠井を通しての連絡窓口である可能性も、いや、その方が高い。
ということは、もし淳三郎さんたちに会うことすらできなかったら、それは単なる「さようなら」として受け取られてしまうわけだ。


車は進が指示した場所へ向かっていた。高速を長い車が飛ばす。


「みのる、紙とペンかなんかあるか?」


出されたものを、進に渡す。


「その小さな旅館の見取り図みたいなもの、書ける範囲で書いてくれ」


進はかなり頭を悩ませながらペンを走らせた。本館はそれなりの広さがあるようだが、淳三郎さんたちがいるのはシークレットゲスト用の別館だろうということだ。客室は1階と2階に1つずつ。従業員用スペースが一か所。物置が1つだ。


「どうでもいいけど絵が下手だな」

「マジでどうでもいいしうるせえな黙れ」

「1階か2階かにもよるかな……2階、テラスって書いてあるけど洋間か?」

「ああ。1階は和風で縁側がある」

「じゃあ十中八九1階だろうな。物置とか従業員スペースに窓は?」

「はっきりとは覚えてねえけど……あったとしても大きくはないし上の方についてる通気口レベルだろうな。すんなり侵入とはいかない」

「中の者の手を借りずに、というのは、難しいということですね」


みのるも下手な図を眺めながら言う。進はペンを弄びながら渋い顔だ。


「5年ぶり、か…………」


はやる気持ちと不安な思いの両方を乗せて、単調な景色は流れて行く。
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