私立秀麗華美学園
別館の裏側までまわると、確かに縁側があった。人の姿は見えない。と思ったら、奥の間に人影があった。スーツっぽいのでたぶん見張りだろう。


「従業員通用口に回ろう」


小声で言った進に、迂回しながらついていく。木立にもっとも近い壁面に、通用口はあるらしかった。そちら側には、今のところ人はいない。


「……で」

「ん?」

「ここからが問題だ」

「え?」

「待つしかない」

「待つ? ……お前に味方してくれそうな人をってことか?」

「ああ」

「隠し通路的なのとかないのかよ」

「RPGかよ。ねぇよ」

「え、ていうか、味方してくれそうなここの従業員? みたいな人が別館にいるのは確かなのか?」

「可能性はそれなりに」

「それなり」


木立で座り込んで、小声で話している。なんの持ち物もない、身ひとつだ。
ちょっと、突っ走りすぎたのかも、と初めて思った。


「じゃあひたすら待つしか? 連絡手段は?」

「個人的な連絡先なんか知らん」

「あとその対象って何人いる?」

「2人は確実で……あと、まあ、少しは」


2人……そのうちどっちかが、ここを偶然通る可能性。

俺はしゃがみ込んだ足元をまさぐった。


「よし、石投げよう」

「!?」

「従業員通路の扉に。そしたらきっと誰か出てくる」

「それってかなり危険なんじゃ」

「待ってるだけじゃだめな気がする。物音ぐらいで見張りが全員集まってくるってこともないと思うし」


石ころを探している俺を見て、進は驚いた顔で黙っている。

手ごろな大きさのものを見つけて、立ち上がろうとすると、素早い動きで奪われた。


「貸せ」

「え」

「俺の方が飛距離も命中率も断然上だ。離れた場所から投げられる」


そう言うと、2人分の隠れるスペースを確保できそうな茂みの傍で立ち上がり、進は石を構えた。


「そう言えば肩だったよな」

「あぁ?」

「ゆうかを守ってくれた時に、怪我したとこ」


こいつと直接、この話をしたのは初めてだった。進はにやりと笑って、俺に、しゃがんでおけと合図をする。


「そんなことも、あった、なっ」


言いながら、投げられた石はうまい具合に扉に当たった。進も素早く隣にしゃがみ込む。

静寂の中、自分の鼓動が響くのを聞いて待っていると、数秒後、うっすらと扉が開かれた。
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