私立秀麗華美学園
顔を出したのは、従業員の格好をした女の人だった。結構若い。進の方を見ると、なんだかよくわからない顔をしていた。


「あれは?」

「……さっき言った2人には、含まれてない、が」

「が?」

「微妙だ。微妙過ぎる。味方してくれると断言はできねえ」

「やめといた方がいいのか」

「…………いや、賭けよう」


扉の外をきょろきょろ見渡していた女の人が顔を引っこめようとした時、進が立ち上がった。物音に驚いたように、首をすくめる。
進が近づいていくと、目を見開いている様子が見えた。


「……進ちゃん!?」


俺のところにまで聞こえるような声で女の人が言ったので、進は慌てて駆け寄って行く。少し話していたと思ったら、こちらに近づいてきたので、立ち上がって頭を下げた。


「あら、あなたは……えっと」

「初めまして。月城和人といいます」

「こちらは愛さんだ。ここの従業員をやってる」


愛さんは、口に手を当てて、俺たちの顔を交互に見つめていた。ロング丈のシャツワンピースと、腰から下にエプロンをつけている。20代後半、ぐらいだろうか。進が幼い時によく連れられて来ていた場所だというから、懇意にしていた人としては、イメージよりかなり若かった。


「あっ、私ったら、驚いちゃって、申し訳ありません。早坂愛と申します。それにしても進ちゃんったら、一体何をしてらっしゃったの? 突然いなくなったとお聞きして、私どもも肝を冷やしておりましたよ」

「それは、ちょっと……愛さん、別館の方に他の従業員は? 淑子さんとか」

「進ちゃんがお知り合いの方はいらっしゃらないと思うわ……それにしても、大きくなったのねえ。3年ぶり? 4年ぶりかしら」

「愛さんだけか……それじゃあ、愛さんに頼みたいことがあるんです。と、いうか、前提として、俺やこいつがここに来たこと、黙っておいてもらわなくちゃいけないんですが」

「あら、もちろん。進ちゃんの仰ることなら聞いて差し上げるわ。あのね、進ちゃんの御祖父様が御存命の頃からお仕えしてた人たち、それこそ淑子さんなんかと、ずうっと心配していたのよ」


小柄でおっとした喋り方の愛さんは、ずっと進の顔を覗き込んでいた。本当に心配していたらしい。
色々と気になることはあるだろうに、質問に対して進がきちんと答えなくても、不満そうな態度をひとつも見せずに必要な返事をきちんとしてくれるところが、信頼に足る人物だと思わせた。
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