私立秀麗華美学園
「でも、進は」

「無理ではないかもしれないが、それより……俺は、おとりになった方がいいと思う」

「おとり?」


ああ、と言う進は既に決意を固めたような顔をしている。


「逃走してた次男が、突然現れて逃げ回る。これ以上の陽動作戦はない。昔馴染みのところに逃げてきたってことにすればおかしくねえし」

「でも、淳三郎さんに、説明」

「んなもんお前1人で事足りる。1人の方が見つからずに潜り込める可能性も高い」

「だけどお前は、家を裏切った事実無しに戻ってもらわなくちゃ意味がない。うちとの関係が怪しまれたら一巻の終わりだ」

「だからこそ、ここを頼るつもりで逃げ出したって方が説得力があると思わねえか? 父親のやり方に嫌気が差したから、じーさんが懇意にしていた人々を頼る……」

「だめよ。そんなの私が許しませんわ。進ちゃんは今でもお家の中で居づらい立場だと聞くのに、その上」

「愛さん、それは」

「だからね、私が協力するわ」


愛さんは、漫画みたいにドンっと胸を叩いて見せた。同時に、後ろで風に吹かれた背の高い草むらがさわさわと揺れ動く。


「進ちゃんは、フリをするだけでいいの。私が言うわ。『あっ、今草むらに、人影みたいなものが!』って。そしたら進ちゃんは、その通りの場所で少しだけ草木を揺らしてくださいな。一旦信じ込ませてしまったらあとは、進ちゃんがいるのとは全然別の方を指して、『ほらあっちに!』だとかなんとか言っておくから」

「確かに愛さんが協力してくださるなら、進は出て行かない方が今後の展開にとってもいいけど……念のためとかって捜索されて、本当に進が見つかったりなんてしたら」

「大丈夫よ、たぶん。小さな森みたいなここのことは進ちゃんがよく知ってるわ。小さい頃にたくさん遊んだんだもの。
それに、あまりにも奥深い田舎みたいなとこにあるせいで、時々野生の中型動物ぐらいならやってくるのよ。それと見間違えたんだわってことにしちゃいますから」


勝手な話だが、進には家の中で、できる限り不利な状況でいて欲しくなかった。愛さんにかける迷惑が増すところは気になったけど俺としては同意したい。だけど決めるのは進だ。
眉間にシワを寄せ目を閉じている。悩む顔。やがて夢から醒めるように目を開くと、瞳に力を入れて愛さんを見た。


「わかった。愛ちゃんの、言う通りにすればいいんだろ」


つっけんどんな言い方に、愛さんは目を細める。懐かしい姿を重ねるように。よしっと言って、ガッツポーズをして見せた。
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