私立秀麗華美学園
そうと決まれば、と2人は人影を見つける場所の打ち合わせをした。こっちを指すから、あっちに逃げて、と。いざとなったらあの大木なら登れそうだわ、なんて言っている。そうはならないことを祈るばかりだ。
そして俺は、愛さんについて、建物の中に潜り込むことにした。出る時は、と言うと、「花嶺夫妻を丸め込めたらどうにかなるわよ。それか、人のいない隙に私がどうにかしますわ」と、なんとも行き当たりばったりな感じだった。
まあ確かに、淳三郎さんたちを味方につけられればどうにかなる気がする。逆に顔を合わせた途端、「闖入者だ」とつまみ出される可能性も無きにしも非ず。なんの保障もない。体当たりだ。
「じゃあ」
進とはここで一旦分かれる。無事を祈る、と言ったら、目を泳がせた後で片手を差し出してきたので、握手した。固い握手なんてものではなく、どっちの手もへろんとしていた。形にしようとはするものの握るのはためらわれる、という感じに。目も合わせず手を差し出し合う俺たちを愛さんがきょとんと見ていた。
「――愛ちゃん、頼んだ」
がってんだ、と、変な返事をして愛さんは建物の方に歩き出した。俺は周りの様子を伺ってから、そろそろとついていく。
「こっち側はあんまり人がいないから大丈夫ですよ、たぶん」
「愛さんは結構、大胆不敵ですね」
「そうかな? 和人くんも愛ちゃんでいいのよ」
「いや、でも、年上だし」
「たった一回り少しでしょう。私のような召使いみたいな人間相手にも、お2人は優しいのねえ。お金を握らせて脅しでもなんでもすればよろしいのに」
「……そういうやり方で、世の中を渡ってきた人たちを敵に回して、同じことはしたくないです」
「ほう」
従業員通用口の前で立ち止まって俺を上から下まで眺めた後、扉を開きながら愛さんは言う。
「――それは立派なお心掛けね」
微妙に皮肉めいた響きを感じたが、建物に入ってしまえば迂闊に声は出せない。
愛さんが後ろ手に扉を閉めたのを確認した後、建物内部の気配を伺った。従業員通用口から続くのはまず小さな厨房だった。台所、と言った方がいいかもしれない。並んで作業できるのはせいぜい3人といったところ。
今は愛さんが支度をしていることになっているので、当然人はいないが、慎重に物陰に身をひそめながら進んだ。
そして俺は、愛さんについて、建物の中に潜り込むことにした。出る時は、と言うと、「花嶺夫妻を丸め込めたらどうにかなるわよ。それか、人のいない隙に私がどうにかしますわ」と、なんとも行き当たりばったりな感じだった。
まあ確かに、淳三郎さんたちを味方につけられればどうにかなる気がする。逆に顔を合わせた途端、「闖入者だ」とつまみ出される可能性も無きにしも非ず。なんの保障もない。体当たりだ。
「じゃあ」
進とはここで一旦分かれる。無事を祈る、と言ったら、目を泳がせた後で片手を差し出してきたので、握手した。固い握手なんてものではなく、どっちの手もへろんとしていた。形にしようとはするものの握るのはためらわれる、という感じに。目も合わせず手を差し出し合う俺たちを愛さんがきょとんと見ていた。
「――愛ちゃん、頼んだ」
がってんだ、と、変な返事をして愛さんは建物の方に歩き出した。俺は周りの様子を伺ってから、そろそろとついていく。
「こっち側はあんまり人がいないから大丈夫ですよ、たぶん」
「愛さんは結構、大胆不敵ですね」
「そうかな? 和人くんも愛ちゃんでいいのよ」
「いや、でも、年上だし」
「たった一回り少しでしょう。私のような召使いみたいな人間相手にも、お2人は優しいのねえ。お金を握らせて脅しでもなんでもすればよろしいのに」
「……そういうやり方で、世の中を渡ってきた人たちを敵に回して、同じことはしたくないです」
「ほう」
従業員通用口の前で立ち止まって俺を上から下まで眺めた後、扉を開きながら愛さんは言う。
「――それは立派なお心掛けね」
微妙に皮肉めいた響きを感じたが、建物に入ってしまえば迂闊に声は出せない。
愛さんが後ろ手に扉を閉めたのを確認した後、建物内部の気配を伺った。従業員通用口から続くのはまず小さな厨房だった。台所、と言った方がいいかもしれない。並んで作業できるのはせいぜい3人といったところ。
今は愛さんが支度をしていることになっているので、当然人はいないが、慎重に物陰に身をひそめながら進んだ。