私立秀麗華美学園
畳敷きの部屋だった。急いで外した腰板を元通りはめこむ。
そして部屋に目を向けると、そこにはやはり、淳三郎さんがいた。縁側に背を向け文机の前に座っている。
当然のことだが驚いて声も出ないようだった。


「和人くん!?」


背後から声がしたので振り向くと、そちら側にりえさんが立っていた。いつものように着物姿だ。しっ、と口の前に指を立てる。


「驚かせてすみません。実は……」


その時、外から「花嶺様」と声がした。あまりに危ういタイミングだった。ピタリと動きを止める。


「お気づきかとは思いますが、表で少々騒がしくしております。お話しさせていただきたいので失礼してもよろしいでしょうか」


部屋の中に入ってくる……りえさんと淳三郎さんが目を合わせた。動いたのはりえさんだった。部屋の奥の押し入れを開いて、目で俺を促す。


「少々お待ちを!」


りえさんが外に向かって声を上げる。押し入れに入ると、音を立てないようにするりとふすまを滑らせた。

俺の視界が真っ暗になって数秒後、「結構です」と聞こえた。着替えの途中でして、とりえさんが言い訳しているらしい。相手の話はよく聞こえなかったが、ただ表の騒がしさの説明をしているだけのようだった。

障子戸が閉まる音がしてまもなく、目の前のふすまが開かれた。


「こんなところに、ごめんなさいね」

「とんでもないです。迅速な対応、ありがとうございました」


障子の外で軽快な足音がしたと思ったら、ワゴンを転がす音が聞こえた。愛さんだろうか。どうやらしばらくは安心していいらしい。

押し入れから出てきて立ち上がると、黙ったまんまの淳三郎さんに視線を注がれる。急いで駆け寄り、少し距離をあけて正座した。りえさんも小走りでやってきて、脇に腰を下ろす。とりあえず問答無用で見張りに突き出されることはなさそうだ。

お2人の目を交互に見つめてから、背筋を伸ばして、頭を下げた。


「大変失礼なお伺いの形となってしまいまことに申し訳ございません。ただ、これ以外に方法がなく」

「当然だ。一体何のつもりなのだかお聞かせ願おう」

「はじめに申し上げておくと、僕が今ここにいるのは自分の意志によりますが、父や兄の承諾の下の行動でもあります。自分勝手な行動で、花嶺様にご迷惑をかけるつもりはありません。
本日は、お願いがあってやって参りました」

「…………お前は事の次第を把握しているのか?」


事の大きさを強調するかのような重厚な声色。信用してもらうためであっても、真理子さんとみのるのことだけは絶対に言えない。一度畳の縁に目を落とし、興奮した頭の中を整理した。
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