私立秀麗華美学園
「来たのがお前だという時点で、言いたいことはわかっている。はじめからそう言えばいいものを」


息を長く吐き出して、黒々した瞳の怪しげな輝きが萎んでいく。


「言うておこう。あのメールを宏典殿に宛てたのは笠井側からの指示だが、言われなくとも私はそうするつもりであった。月城家の人々を、引きずり込むことは避けたかった」

「ご配慮には感謝します。でも、僕はどうしても受け入れることができませんでした」

「敢えて聞くがなぜだ」


間髪入れずに言われて間もなくの即答を促される。


「お嬢さんを……不幸せに、したくないからです」

「お言葉だが、笠井の次男はうちの娘に好意を持っていると聞く。何故ゆうかが不幸になると言える? 今まで通りの方がゆうかのためだと、お前に言えるのか?」


お前に言えるのか――? この上なく、厳しい言葉だった。

進との関係が、変わったどころか、彼は自分たちの味方をしてくれており、今もまさに危険を冒して行動してくれていること。預ける、という形で力を借りようと思うほどの信頼を築いており、ゆうかと進の仲を危険視するつもりもないということ。


結局それは伝えなければいけないことだが、今、言うべきことはそれじゃない。

だって、消去法で選んでもらったって意味がない。

消去法で選んだ幸せに、大事な人を送り出せるはずがない。


「不幸、には、ならないかもしれません。そういうところから始まる幸せもあるかもしれない。だけど――
今、ゆうかを一番幸せにできるのは、俺です。そして、ゆうかはそのことを良く知っています」


ぐるぐると、様々な景色が脳内を巡る。一年前の自分には口が裂けても言えなかった言葉。姫と騎士、の、特別な関係の檻の中で、それぞれの出口を探して悩んできた時間。

騎士だから、じゃない。月城だから、じゃない。

その関係を失ったとしても、変わらない。いつまででも待って、耐えて、努力して、ゆうかを迎えに行く。

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