私立秀麗華美学園
「僕たちの本来の関係のことも聞きましたが、どうだっていいことです。姫と騎士の関係で長い時間を過ごす間、僕はその関係性に依存して、甘えて、ただ身を任せていただけでした。
だけど、そういう肩書無しにも、ゆうかがひとりの女の子として自分にとって大切だと気づいた時に、怖くなりました。
自分には、この人の相手になる資格があるとは思えない。だけど自分にとって、こんなふうに思える相手とは二度と出会えない――」


好きだから誰にも渡したくないのか。好きだから幸せになって欲しいのか。
前にもこんなことを考えたなと思い出す。あの時見えていたゆうかは、俺に背を向けた後姿だった。


「一番いいのは自分の手で幸せにすることだけど、一方的ではどうにもならないことだとわかっています。
だから、えっと……俺が言っているのは、独りよがりで勝手な空想じゃなくて、ちゃんと、ゆうかとの意思疎通の中から見えたことなんです。
俺たちは、きちんと俺たちの未来を想像しています。与えられたお手本をなぞっているわけじゃなく、自分たちの在り方で、生きていく覚悟を――決めようと、同じ方向を向けたところぐらいだと……思うんです。そして、俺は、このままじゃだめだから、ゆうかとずっと一緒にいたいから、そんなふうに思える相手に出会えた幸運を、無駄にしたくないから、だから」


自分が、筋道の通ったことを言えているのか、わからなかった。何の関係もないことを口走っていたらどうしよう。でも、全部伝えないと、全力で伝えないと。淳三郎さんやりえさんの様子を確かめる余裕もなくて、やっぱりかっこ悪いなって思う。雄吾みたいに冷静沈着はなれない。進みたいに堂々とした貫禄も持てない。
でも、自分だけが全然だめだとも思わなかった。口から出てくる言葉は確かに俺のものだったから。


「だから……守らせてください。ゆうかのこと、それから、ゆうかの大切な家族、花嶺家のみなさんのこと。全部守ります。一生かけて守りますから、どうか、お願いします!」


畳につくまで頭を下げる。本気の土下座をしたのは人生で初めてだ。神経をすり減らしながら言葉を選んでいた時にひきかえ、思いつくまま喋ってしまった今、身体は熱かった。眼をつぶって歯もくいしばって、これ以上苦しい時はないとばかりに、息をつめて、言葉を待つ。


……そのままで、しばらく時間が過ぎた。
よく考えたら、感情論ばっかり語って、具体的な方策なんかを何も言っていないことに気づいた。それがないと、いいとも悪いとも言い切れないかもしれない、と、少し落ち着いてきて、そっと顔を上げて、みたら、
りえさんが泣いていた。


「えっ、あの、りえさん…………?」

「ねえ、あなた、ねえ」


瞳に涙をいっぱいに浮かべ、ハンカチを添えつつ、淳三郎さんの背中に手を置いている。淳三郎さんは、腕組みをして目を閉じたままで、口を引き結んでいた、のだが、


「……いいだろう」


その途端、パァンとすさまじい音がした。反射的に音の方を向くと――――部屋の入口の障子戸が、全て開け放たれていた。






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