私立秀麗華美学園
「いやっ、籍って、そりゃいつか、そうだけど、そんなまだ、な?」

「え、ええ。そりゃあもう、決意は固まったと言っていいんだと、思いますけど……」

「あんなことがあってからもう1カ月も経つのにこの様子ですから、残念ながらまだまだ遠いかもしれませんよ、稔さん」

「なんてったって年季が違いますもんねー。姫と下僕やった時間の。そんなわけですから、長い目で見たってくださいなー」


しどろもどろの俺とゆうかに代わって、雄吾と咲が楽しそうに返事をする。俺たちの関係を、一番近くで一番長く見守ってくれていた2人の言うことだから、何も言い返せない。


「そうかもしれませんねえ。不躾にお尋ねしたのには、ちょっとしたわけがあるのですけれども」

「な、何?」

「一応事前に、ご相談しておいた方がいいかと思いまして」

「相談?」

「そろそろ、身を固めようかと考えております」


身を、固め…………


「結婚!?」

「はい」

「だっ、誰と!?」

「誰とって、それは」

「待ってください!」


突然ゆうかが大きな声を出した。身を乗り出して、眉をひそめた表情でみのるを見つめる。


「あっ、いや、すみません……だけど、だっていきなり、結婚だなんて……」

「……いいえ。ですが、ゆうかお嬢様。あなた様がそのように取り乱されるのは、決まって、自分ではない誰か他の大事な人に関する話の時ですね。ご心配には、及びません」


……俺にも想像がついた。ゆうかが冷静さを失う時には、何か理由がある。自分ではない誰か他の大事な人。みのるの結婚。ゆうかもきっと、知っているのだ。

長く連れ添った自分の大事な付き人、持田真理子さんの気持ちを。

そして、心配ないということは。


「まさか、相手って」

「ええ。持田様以外に誰かいるのなら、逆に教えて頂きたいぐらいです」


――考えたことがないわけではなかった。できればみのるには、この仕事を続けている限り、不都合が無い限り、今の関係でいてもらいたい。もし、俺がゆうかと家庭を持って、新しい家に住むのなら、みのるさえよければついてきて欲しい。
そしてゆうかにとっての真理子さんも。2人が、同じ家に住み込みで働く、という未来。その先のことを、都合良く、考えてみたことがないわけではなかったが……

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